統合のベースとなった"伊勢丹型管理会計"とは
三越伊勢丹グループは三越伊勢丹ホールディングスの経営管理の下、首都圏に主要店舗を抱える三越伊勢丹のほか、国内/海外に広く百貨店や不動産事業を展開する数多くの関連企業が含まれている。2008年4月に正式に統合を果たした同グループのスローガンは「向き合って、その先へ。」―これは顧客、パートナー、地域社会、そして社員ひとりひとりというすべてのステークホルダーに対し、真摯に向き合うという意味が込められている。
2011年3月期の連結業績を見てみると、長期にわたる百貨店不況を反映してか、売上高は前期比94.5%の1兆2,207億円、売上総利益は前期比94.8%の3,420億円と、きびしい数字が並ぶ。しかしここで注目したいのは、営業利益としては前期比263%の109億円を計上している点だ。この不況期に利益を上げることができた要因は「ひとえに販管費の254億円削減を実現したことにある」と岡田氏は語る。これだけの結果を残すには、部署単位のこまごまとした経費削減では不可能であり、「全社的な取り組みがあってはじめて実現する数字」(岡田氏)である。
ではその全社レベルの取り組みは何をもって実現したのか。それが今回の話のメインである新たな管理会計システムである。「伊勢丹が2005年から採用してきた職能予算制度をベースとした管理会計システムに三越を組み込み、その上で地域会社の独立性やホールディングスの統括などの要素を加味して作られた」と岡田氏が説明するそのシステムこそが、販管費の大幅削減はもとより、さまざまな統合事業の大幅な前倒しを可能にしたのだ。
まずはベースとなった伊勢丹の職能予算制度について見ていこう。この制度を導入する以前、伊勢丹では、各店舗に計上できない経費を営業部門に載せていた。だがこれだと営業部門のPL(損益)に多くの経費が計上されることになり、責任区分が曖昧になる。これは実態と乖離した数字となって表面化し、「各店舗の評価にズレが生じる原因となっていた」(岡田氏)という。
そこで伊勢丹はこれを改めるべく、5つの見直しを実行する。
- 管理PL体系の見直し(責任利益の見直し)
- 統括経費管理の導入(店舗縦割りから、統括部門の横串管理へ)
- 予算勘定科目の削減
- 予算編成用Excelの廃止と2段階予算編成プロセスの見直し
- 紙ベースの定期帳票の廃止
PL体系を事業部制と職能制のマトリクス型にし、各店舗が自分たちで管理できる範囲を「説明責任利益」として評価の対象とした。各店舗が独自に運用する経費は「単独運用経費」、そしてこれまで曖昧にされてきた経費は統括部門が総額を管理する「共同運用経費」として計上し各部で負担するように改めた。
この仕組みを三越との統合に活かしたことで、カード統合、首都圏統合、本社機能統合など、本来2013年度完了を目指していた各種の統合事業を2010年度に完了させることができたという。
「とくに首都圏の旗艦3店舗(新宿伊勢丹、日本橋三越、銀座三越)は営業本部組織(MD統括部)が統括することになったが、それまでのMD統括部の予算は婦人服でいくら、紳士服でいくら……といった形でつけていた。これをマトリクスな体系で管理会計に反映させるために、総合組織体系と店舗損益体系の2つのPLを持たせることにした」(岡田氏)
これを可能にしたのがOracle Hyperion Planningだ。複数の損益体系や組織体系を保持することができるHyperion Planningがマトリクス型の管理会計実現に大きく貢献したと岡田氏は振り返る。