クラウド時代を迎え、HPCも所有から利用へ
今回発表されたソリューションは、従来からHPCを得意としてきたCTCが「本格的なクラウド時代を迎え、大量の計算処理が必要なときだけHPC環境を使いたいという顧客のニーズに応える」(CTC 取締役 兼 専務執行役員 藁科至徳氏)ことを目的とするもの。
CTCのHPC環境は金融機関を中心に2005年ごろから導入が始まり、数多くの実績を誇る。藁科氏は「HPCには3つのフェーズが存在する。第1フェーズは2008年までの専用ミドルウェアの時代。このとき始めて大手都銀に1,000コアを納入した。これがCTCのHPCソリューションの礎となっている。第2フェーズは現時点までのWindows HPCの時代。安価で高性能なWinodws HPC Serverが登場したことで、金融業界におけるHPCシステムの導入形態が大きく変わった。そして第3のフェーズがこれから始まるクラウド時代。HPCも所有から利用へと使われ方が変わっていくだろう。我々がHPCリソースを所有し、お客様は必要なときに必要な分のリソースを使っていただきたい」と語る。
これまでHPC環境iステム導入する企業は、たとえば全口座の書き換えや四半期ごとの決算などピーク時の負荷を想定したシステムを構築していたが、平常時にはリソースが使われず、TCO的に見ても大きな無駄が生じていた。
今回発表されたソリューションでは、平常時はCTCのデータセンターから提供されるオンプレミスのHPCシステムを利用し、繁忙期はマイクロソフトのデータセンター(シンガポール)にあるWindows Azure Platformのリソースを活用して負荷の高い計算処理を行うという、パブリッククラウドのスケールメリットを活かしたハイブリッドなシステムが提供される。
ユーザ企業は平常時の負荷に応じたシステム環境を構築すればよく、繁忙期のみ、時間単位の課金が可能なAzureリソースを利用できる。Azure上では数百万サーバが稼動しているので、HPCリソースの大規模利用も問題ない。オンブレミスからクラウドへの切り替えは自動で行われるため、ユーザは気にする必要はなく、どちらの環境でも同じプログラムを動かすことができる。また、申し込み直後から利用することも可能だ。
コンピューティングパワーの一時的利用というニーズ
金融業界では、ここ数年、コンプライアンスをめぐる法規制がワールドワイドで大きく変わってきている。
銀行の資本に関する健全性の規制であるバーゼルIII、保険会社の資本に関する健全性の規制であるバーゼルII、そして上場企業のIFRS適用などがその例で、とくにIFRS適用は今後、日本の金融機関にも大きな影響を与えるとされており、金融商品のリスク計算や金融機関の財務計算などによる負荷の高まりが予想される。今回の両社の提携は、そうした一時的な負荷の高まりに対応するソリューションとして、パブリッククラウドの特性を活かした、世界的にも注目すべき事例といえる。
金融業界が扱うデータはセンシティブな性格であるため、国内ではなくシンガポールのデータセンターで計算処理が行われることに対するユーザ企業の懸念については「セキュリティには万全を期している。基本的に計算に必要なデータだけを投げることにしており、個人情報にかかわるデータが必要になった場合は暗号化するなど、絶対に漏らさないように設計されている」(CTC 金融システム事業企画室 下地俊一氏)としている。
日本マイクロソフト 代表執行役社長 樋口泰行氏は「マイクロソフトはプラットフォームの会社であり、ホリゾンタルなプラットフォームを提供する会社。したがってパートナーとの協業は基本中の基本」と語り、今後は両社で2次的な検証を行い、共同で営業やマーケティングを行っていくとしている。
「コンピューティングパワーの一時的利用というニーズはこれからもどんどん高まってくるはず。マイクロソフトがAzureというプラットフォームを提供し、パートナーがその上にシステムを構築するという協業のあり方は今後も増えてくる」(樋口氏)
CTCは今後、こうしたオンプレミスとパブリッククラウドを融合させたハイブリッド型のHPCシステムを金融業界だけでなく、物流やヘルスケア、サイエンスなど他の業界にも適用していきたいとしている。