CIOの本質を見極め、課題多き社会に貢献を
社内の情報化戦略を立案、実行する責任者という位置づけであったCIO(Chief Information Officer)だが、近年、その役割や求められる能力が変わりつつあるという。
真瀬氏が会長を務める日本CIO協会では、各社のCIO同士の交流とともに、CIOの相互研鑽と人材育成、そして社会的認知の向上を目的として、セミナーなどの活動を行ってきた。そこでの議論を通じた実感として、真瀬氏は「BCPへの対応など様々な会社の課題に取り組む上で、個々の企業・機関による対策だけでは事実上不可能。今や、いかに他の企業やインフラなど他の組織と協力し合うかが重要となっている」と語る。そして改めてCIOの役割として、日本CIO協会のロゴにも使われている『Innovation』『Integration』『Information』の意に触れ、「CIOの本来の目的と理想に立ち戻り、改めてその役割について考える必要がある」と訴えた。
なお、米国では1996年にITマネジメント改革法(クリンガー・コーエン法)が施行され、連邦政府や州政府へのCIOの設置のほか、12のコアコンピタンスと、571にのぼる学習目標に集約された「CIO候補者向けの大学院教育プログラム」が全米のCIO大学に設けられている。日本でも早稲田大学との連携により独自に育成教育がはじめられており、真瀬氏はその中から、オリンパスの北村正仁氏の講演を引用し、「CIOのベストプラクティスについて」紹介を行った。
2007年当時のオリンパスグループにおけるITマネジメント体制は、戦略・企画・業務改革で「攻める」、インフラ・ネットワークで「支える」、その上で開発保守を行う「造る」、そしてセキュリティやコンプライアンスなどの「守る」の4つのIT部門で成り立っており、それらを集約し、有効的に現場で「活かす」ことが求められた。
これからのCIOに不可欠な産学官、業界を越えた連携
しかし、内部統制やCSR、J-SOXといったテーマに集約していた「守る」が、東日本大震災以降、大きく変わりつつある。加えてタイの大洪水などSCM(Supply Chain Management)面からも「守る」に求められる事項が広く、深くなってきている。そのためには、企業内ばかりに留まらず、電力や生活物資、風評被害などから社会インフラを「守る」必要があり、もはや一企業の問題ではなくなってきたというわけだ。
真瀬氏は「大震災から既に半年以上が過ぎている。のど元過ぎれば熱さ忘れる、であってはならない。今こそBCP(事業持続計画)を社会全体で考え、取り決めておく必要がある」と力説し、さらに、IT中心の復旧だけではなく、ビジネス全体を見据えた継続性、回復力のある環境構築が不可欠であることを強調した。これらは国際CIO学会、日本CIO協会からの共同声明として5月27日に出されており、BCP を統括する組織・人材の重要性や、適度な冗長性の確保、災害時対応を意識した日常業務の見直し、パブリッククラウドの活用、官民連携体制、そして首都直下型大震災への対応など、具体的な項目について細かな提言がなされている。
真瀬氏はパソナテックでの被害事例を紹介し、「それぞれが何を学び、何が必要と感じ取ったか、産学官、業界を越えて共有すべき」と強調し、さらには国を越えたCIOの情報共有の重要性も語り、ロシアや中国のCIO同士の交流会実績が紹介された。