あるべき姿を策定し、構築&評価を繰り返す
東証はもう一つ、情報を提供するシステム構築にも取り組んできた。鈴木氏はこれまでを振り返り、「2000~2005年頃から部門毎でシステムを開発した結果、データも計算もバラバラで統一がとれず、まさにパッチワーク型の典型だった」と解説する。そして、2005年からは基盤の統合や情報系再構築のプロジェクトを通じて共通化が行われたが、一定の成果が得られつつもコストが増大傾向にあり、これから長期的に計画を立案する必要がある」と語った。
特にインフラ側からのアプローチでただ共通化しても、コストはかかりアウトプットは現状と変わらない。鈴木氏は「コストの分は価値を高める必要がある。そのためには、システム改革以前に業務改革を行う必要がある」指摘する。なお東証では、2009年から2011年にかけて業務改革を策定し、その方向性を固めた上で、来年度からは情報系システムの具体的な策定へと駒を進める予定であるという。
情報系の本来ある姿を策定し、システム要件として落とし込んでいき、実装させていく。その際に評価のステップを入れることが重要だという。「全てを開発してからテストして改善する方法や、できてからクレームに対応するという方法では時間がかかり過ぎる。理想の策定から実装までの間に現場の業務改革となるプロセスを入れ、評価しながら改善し、構築していくという手法が望ましい」と鈴木氏は語る。データの種類を分け、それに合わせて階層化を行い、システムの構造化を進めていく。この過程を経て一つの体系とすることで、全体がシンプルに把握しやすくなり、トラブル時の問題抽出も容易になるというわけだ。
業務改善については現場でしっかりと話し合い、ボトムアップで反映させてきた。鈴木氏は「どちらかというと東証は縦割りでなかなか横に通す仕組みがない。こうした取り組みには苦労したが、横との連携をさらに深めるためにも今後も取り組みの一つとして進めていきたい」と語った。
CIOは業務改革から携わり、全社的なシステムの最適化を
鈴木氏は東証に来た5年前を振り返り、「職員がスムーズに『お客様』といえないことに驚いた。証券取引のサービスを提供しているという意識改革から必要だと感じた」と当時の印象を語る。そうした意識改革から業務改革、そしてシステムに反映させるまでを一気通貫で行うことが、血の通ったシステム構築を実現する方法だという。
さらに、部門最適で構築された情報システムが抱える様々な問題を解決するために、すべてのシステムをCIOのもとに集結させていく予定だ。現実的には、様々な思惑や縄張り意識でなかなか実現することが難しいだろう。しかし、業務が連携している以上、全体を見渡し、全体最適化を行う権限をCIOが持たなければならない。
鈴木氏は、全体最適化による具体的なコストダウンの施策として、ソフトウエアやシステム基盤の調達について語り、2012年度にはコスト削減効果を発揮しながら「あるべき姿」を実現するシステムを完成させ、2015年度には品質を高めながらも、2001~2007年度の水準にまでコストを落とすことを目標として語った。
そして、最後に「ITの活用は組織を越えた全社横断の仕組みへと変わりつつあり、組織全体に大きく影響する時代になってきている。東証の社会的役割を考えれば、東証だけの問題でもない。同様に各社CIOも自社のシステムが日本経済に与える影響を認識しながら、今ではなく10年先を見据えてシステム構築に取り組むことが必要だ」と語り、CIOの役割の重要性について訴えた。