時代と共に拡大するビジネスリスク
「銀行員として社会人としてのスタートを切って以来、ソニーで執行役員専務兼DeputyCFO、CAOおよびCIOを務めた4年間以外、様々な企業を渡りつつも、ずっと金融の世界で生きてきた。その経験の中で学んだCFOとして取り組むべきリスクとその回避方法について解説したい」。
こう切り出し、近藤氏の講演は始まった。近藤氏は1967年に住友銀行(現三井住友銀行)に入行。32年間務めた後、99年、大和証券SBキャピタル・マーケッツに転職、1年間、代表取締役副社長を務めた後、ソニーで4年間、執行役員専務を務める。2004年にAIGイースト・アジア・ホールディングス・マネジメントの副会長に就任。09年から富士火災海上保険のCEOに就任。11年10月よりAIG傘下のチャーティスにおいて現職に就いている。
「今も昔も、経営にまつわるリスクを回避する策を考えるのはCFOの仕事だ」と近藤氏は強調する。江戸時代であれば、大店の大番頭がCFO。大番頭は商流にまつわるリスクはもちろん、火事によるリスク、政変によるなどリスクもきちんと考えていた。だからこそ「そういう大番頭がいた大店は、明治維新を乗り越えて現在にいたることができている」と近藤氏は言う。
とはいえ経営にまつわるリスクは「時代と共に拡大している」と近藤氏は語る。どんなリスクについて考えなければならないのか。近藤氏はまず、70年代~80年代前半のトピックスを紹介し、そこから学んだリスクについて解説した。
第一に近藤氏が指摘したのは為替リスクである。これを考える大きなきっかけとなったのが、「71年のニクソンショックだった」という。ニクソン大統領が電撃的にドルと金との固定比率での交換を停止することを発表したことで、固定相場制が一気に崩壊し、変動相場制へと移行。この変化は、「当時のCFOの頭を大いに悩ませた」(近藤氏)という。回避方法としては為替予約、リーズ・アンド・ラグズ、現地生産などがあるが、「為替リスクを回避するためにも、CFOはドルと円という単一通貨の名目為替レートよりも、より長期的な視野で見るなら市場全体の競争関係がわかる実質実効為替レートに注目すべきである」と示唆した。
第二は海外投資案件リスク。それを考えるトピックスとして近藤氏が挙げたのは、カナダにおける石油精製プロジェクトに失敗し、75年に経営破綻、77年に伊藤忠商事に吸収合併された安宅産業事件である。当時、近藤氏は住友銀行外国部支店班員としてニューヨーク支店の業務実績を見ていたという。「なぜ、早くからわからなかったのか後悔した」と近藤氏は振り返る。第三は原油価格リスクである。「全世界的に見て、原油価格はこれからも高騰する。CFOとしてこのリスクへの対処はやっていくのは当然だ」と近藤氏。
第四は金利リスク。「現在のCFOも借入金利が数パーセントという時代しか知らない人が多いと思う。しかし、日本銀行の白川総裁も先日の記者会見で、金利が急上昇する危険は排除できないと話していた。70年代後半、金利が18%もあり苦労した経験をもつ私だけに、金利リスクについてもなんらかの対策を採っておくべきだと考える」(近藤氏)。