日本法人については具体的な決算の数字が提示されることはないが、廣川社長によれば「日本法人は全体の売上の約10%を占めており、年率20%を超える伸びを示している」という。とくにJBossに代表されるミドルウェア事業、そしてサーバおよびデータベースの仮想化事業が非常に好調のようだ。また昨年10月に買収したGlusterFSのストレージソリューションを軸としたビッグデータ事業への注目度も高く、年末に発表された「Red Hat Storage Appliance」などの国内展開も期待される。
Red Hatは2003年会計年度以来、四半期ごとの売上をずっと右肩上がりで成長させてきた数少ないIT企業でもある。その成長の最大の要因であり、同社のすべての事業のベースとなっているのはエンタープライズ向けLinuxディストリビューション「Red Hat Enterprise Linux(以下、RHEL)」である。今回、Red HatでRHEL事業を統括するバイスプレジデント兼プラットフォーム事業部門長のジム・トットン(Jim Totton)氏が来日し、同社の事業全体およびRHELの現状についての説明を行ったので、これをもとにRHELの2012年を概観してみたい。
ビジネスの基盤はつねにRHEL
OSSベースのソリューションを幅広くエンタープライズに向けて提供しているRed Hatだが、なぜ同社だけがOSS企業としてここまで成功することができたのか。トットン氏は
・RHELの成功を足がかりとして、仮想化やクラウドといった他の事業を拡大した
・売上の56%は米国だが、それ以外の地域でも一貫性のある成長を続けている。日本はパートナーとの協業を進めたことで顧客に価値を提供できた
・セグメントごとの対応も進んでいる。とくにミッションクリティカルな分野で強みを発揮する
・OSS採用への世界的な流れ、とくにミッションクリティカルな分野では確実にUNIXからLinuxへシフトが進んでいる
などが背景にあると語る。
そしてRed Hatの成長をこれまで、そしてこれからも支えていくのはRHELであることに変わりはない。RHELがあるからこそ、仮想化もミドルウェアもクラウドも、そしてビッグデータも同社のビジネスとして成立する。
ご存じの通り、RHELはRed Hatが支援を行うOSSプロジェクト「Fedora」をベースにしている。次のFedora 17ではメジャーディストロでは初めてBtrfsをデフォルトファイルシステムに採用するなど、数あるLinuxディストロの中でも先進性では群を抜いているFedoraだが、これをエンタープライズ向けにエンジニアリング(機能統合、安定化、信頼性向上など)してRHELとして提供する。開発の段階からハードウェア/ソフトウェアベンダが参加できるようにしているため、他社と連携したサービスや認定を市場に提供しやすい。OSSコミュニティ、顧客、サードベンダを巻き込んだRHELエコシステムが確立していることが同社にとっての強い推進力となっている。なお、Red HatはLinus Torvalds氏が取りまとめているLinuxカーネル開発に対してもさまざまな面で大きく貢献している。