ハードウェアはかなり厳しいけれどソフトウェアには一縷の望みが
リーマンショックからやっとのことで回復しそうな兆しが見えていた昨年、そのはかない希望を打ち砕く東日本大震災が発生し景気回復は望むべくもなかった。さて、鈍いながらも復興に動き始めた日本、2012年の景気はいったいどうなるのだろうか。そんな2012年の動向を占う調査結果の1つが、ガートナーから1月30日に『日本企業のICT支出予測:2011年第4四半期更新版』という形で発表されている。
2011年のユーザーのICT支出全体を見ると、2010年に比べて2.5%減の222,790億円。減少した要因としてガートナーは「欧米先進国の経済低迷や、日本国内市場の成熟化などの持続的なマクロ要因に加えて、東日本大震災とそれに起因する電力不足などの突発事象が、国内企業のICT予算にネガティブな影響を与えた」としている。そして、2012年も引き続きICT支出は厳しい状況が続くとして、2011年比で0.1%減となる222,662億円にとどまると予測している。ほぼ横ばいからマイナスの傾向ということになるので、IT系のベンダーや開発会社にとっては厳しい状況が続きそうだ。
とはいえ、全体感ではなく詳細を見ていくと2011年よりは成長するであろう領域もある。それがソフトウェアのところだ。ガートナーではソフトウェアに関しては2011年よりも2.2%増加して20,634億円になると予測しているのだ。ハードウェアが2.3%減と厳しい状況に比べれば、ソフトウェアはビジネスの対象を見誤らなければなんとかプラス成長が望めるのかもしれない。ガートナーによれば「2012年は、大手企業を中心に、パッケージ・アプリケーションの展開、統合といったプロジェクト計画への着手が徐々に進むと同時に、ビジネスのグローバル化に対応した、アプリケーション基盤の構築やデータ統合の取り組みなども増え始めるものとみている」とのこと。キーワードは統合とグローバル対応といったところだろうか。
さらに、モバイル向けのソフトウェア関連は徐々に増えるだろうとも予測、モバイル向けのアプリケーション、セキュリティ、運用管理ソフトウェアなどは注目しても良さそうだ。とはいえ、ソフトウェア支出を増やす要因としては、OracleやSAP、IBM、Microsoftなどの外資大手ベンダーが、より多くのライセンス収入が得られるような工夫をしてくるところだとも指摘。となればプラス分のところを、国内企業が手にするのはそう簡単なことではないのかもしれない。グローバル化をにらんだモバイル端末活用ソリューションといったものを、自社のビジネスどうやって取り込むかが鍵となりそうだ。
データサイエンティストという職業
1月26日にEMCが2012年の事業戦略発表を行った。このなかで面白いなと思ったのが、EMCのXaaS戦略。これ、世間一般で使われているようなSaaS、PaaS、IaaSなどの総称的なものではなく、Xのところには、さまざまな世の中のリアルなサービスそのものが入ってくるというもの。これは日本のEMC独自の使い方であり、流行るかどうかは分からないとのことだが、いままでITとはあまり関わりのなかったリアルなサービスが、ITを使って変革してくるという予測は、なんだか夢があっていい。
もう1つこのときの発表会で興味をひかれたのが、データ・サイエンティストという言葉。EMCによれば、「データ・サイエンティストの発掘と育成により、ビッグデータ活用のための提案を推進する」ための、新たな職種としてデータ・サイエンティストが登場した。これ、データ・アナリストとどう違うのかは微妙かもしれないが、なんとなく統計解析のにおいが強いのがデータ・サイエンティストなのだろうか。そういえば、ビッグデータという言葉が使われるようになってから、ちょくちょく耳にするのが統計解析スキルの重要性だったりする。
先日開催したIT Initiative Dayのイベントで、ITRの生熊さんがカルビーの事例を紹介してくれた。カルビーでは畑に設置したセンサーのデータや気象データなどを集め、それを英国の企業に渡し分析してもらい、その結果をもとに農場の運用を管理して効率化しているとのこと。このデータ分析を請け負った英国企業というのが、まさにデータ・サイエンティストが集結する企業なのだろう。今後日本でビッグデータが本当に活用されるようになるには、データ・サイエンティストの専門家集団が出てきて、自らさまざまなビッグデータを収集し、企業からのデータ分析依頼にも迅速に応えるといったビジネスが成り立つ必要があるかもしれない。データ・サイエンティスト株式会社なんていうのも、今年中には登場するかもしれない。
Oracleのプライベートクラウド向けストレージはいかに
Oracleはさまざまな企業を買収していて、もはやどの製品がどこからやってきたのかはなかなか把握しきれない。その傾向は、ハードウェアベンダーのSunを買収して以降、さらに加速した感がある。今週発表されたPillar Axiom 600も、昨年5月に買収したPillar Data Systemsのストレージ製品だ。この製品は、プライベートクラウド向けのストレージとして位置づけられるものとのこと。その特長の1つがQoS機能。プライベートクラウドでは、アプリケーションによってその重要度が異なることが多い。なので、アプリケーションのビジネス価値に応じて、リソースの割り当てやCPUの稼働率、容量やキャッシュの分配などを行えるQoSは重要だとのこと。
この製品のさまざまな特長は、基本的にはPillar Data Systems時代に培ってきた技術がベース。とはいえ、今回は新たにOracleらしさが少し加わっている。それが、Oracle Exadataなどでしか利用できなかった、Hybrid Columnar Compressionに対応しているところだ。こういうハードウェアとソフトウェアの融合で「たんなる箱売りのベンダーとは違う付加価値を提供する」のがOracleのハードウェア戦略。ハードウェアはあくまでもオープンでユーザーにソフトウェア選択の自由を与えるというメリットをとるのか、ハードとソフトの密な連携で生まれる新たな価値をとるのか、これ、今後ユーザーにとってはかなり難しい選択となるのかもしれない。