何が競合かを見極めよ
また及川氏は、社会が複雑化する中、市場も従来の考えとは異なった変化をしているのではないかと述べる。例えば、カプセルホテルの競合がどこかを考えた時、通常であればビジネスホテルやネットカフェという考えが浮かぶが、及川氏はカプセルホテルの競合はタクシーではないかと話す。タクシーで帰宅すれば自宅のベッドで眠れるが、睡眠時間は削られ翌日の通勤もある。そこでカプセルホテルが天秤にかけられるわけだ。航空業界が、出張の機会縮小につながる電話業界を競合と考えるのも納得できる話だ。
こうしたことから及川氏は、「競合は狭い市場の中にいるのではなく、思いもつかないところにいるのではないか。特定の分野だけでなく、異なった分野で競合することもあるのだから。ユーザーが何を求めているのか、一歩下がって見ることが大切だ」と話す。
快適ゾーンから跳び出してみる
最後に及川氏は、自らが実践している思考実験について語った。今回の講演で話したような考えを含め、及川氏は積極的にSNSなどで自分の意見を発信しているが、その際「多くの同意を得られると同時に、やはり一部反発する人もいる」という。しかし、反発されながらも自分の考えを述べることで、「それが触媒となって化学反応が起こり、新しい動きが出てくるかもしれない」という。実際に音楽の世界では、旋律の流れの邪魔をするアボイドノートと呼ばれる不快音をあえて取り入れ、新たな展開をする曲もあると及川氏は指摘する。
「人間は通常、自分の心地よい空間にとどまっていたいと考えるものなので、異端児が何か意見することを不快に思う人もいる。だが、快適ゾーンから一歩踏み出してみれば、そこで化学反応が起こり、何かが変わるかもしれない」(及川氏)。
今回の講演のテーマでもある「見る前に跳べ」という言葉について及川氏は、「見ないで跳ぶのは恐いが、見過ぎて跳べないことが多い。あえて快適ゾーンを跳び出し、化学反応を起こしながら前に進んで行きたい」と述べた。
■参考:及川卓也氏 デブサミ講演資料(SlideShare)「見る前に跳べ ~ギークの工夫で社会を変えよう~」