エンタープライズITのコンシューマライゼーションへ
「これからは歯ブラシよりも多い数のモバイル端末が存在するようになる」「ソーシャルメディアによるコミュニケーションはまもなくメールよりも一般的になる」- 会場に詰めかけた1万人を超える聴衆に向かってマクダーモット氏はこう言い切った。
SAP ERPに代表される業務アプリケーション主体のビジネスを展開してきたSAPだが、それはこれまでコンシューマの世界とはほとんど無縁だったことを意味する。
だがモバイルの爆発的な普及、そしてソーシャルメディアというコミュニケーションが一般的になるにつれ、エンタープライズITの世界だけが従来のままでいることは無理がある。モバイルやソーシャルメディアの流れは、確実にエンタープライズの世界にも押し寄せるはずだ。
「我々は、顧客に新たなエクスペリエンスを提供する用意がある」と語るマクダーモット氏の言葉には、SAPは今後、"エンタープライズITのコンシューマライゼーション"に突き進んでいくという意志が込められている。
モバイルやソーシャルメディアがなぜビジネスにとってそれほど重要になるとSAPは見ているのか。その理由は"スピード"である。モバイル端末があればどこからでも情報にアクセスでき、ソーシャルメディアを使えば誰もが情報を受発信できる。「Any Device, Anywhere, Anyone」は今回のSAPPHIRE会場のあちこちで見かけたメッセージだが、情報伝達のスピードは1年前と比べても確実に高速化している。モバイルとソーシャルメディアがもたらすスピードは、もはやコンシューマの世界にとどまらず、ビジネスにおいても無視できないどころか、最大限にそのメリットを利用すべきものなのだ。
「好むと好まざるとかかわらず、世界はコンシューマライゼーションに向かっており、その流れは止まらない。だからこそスピードを味方につけた企業こそが競争優位を得ることできる」とマクダーモット氏。それを実現するツールがSAPの提供するエンタープライズITであると訴える。
そしてスピードを象徴するSAPの技術といえばインメモリプラットフォーム「SAP HANA」だ。マクダーモット氏はHANAを「リアル・リアルコンピューティングを実現するアーキテクチャ」と評しており、今後、HANAにかかわる人材を大幅に増やしていくことも表明している。HANAはSAPのすべてのソリューションの基盤となると言われているが、コンシューマライゼーションにおいてもそのスピードでもって重要な役割を果たすことは間違いない。
当然ながらコンシューマライゼーションという言葉を使うからには、ユーザにとって使いやすい環境でなくてはならない。マクダーモット氏はコンシューマライゼーションに欠かせない要素として「スピード、シンプリシティ、パーソナライゼーション」の3つを挙げている。この3つこそがエンタープライズITのコンシューマライゼーションを支えるものであり、SAPが提供するソリューションの特徴となるべきキーワードとなる。基調講演中、マクダーモット氏は何度も「like never before」というフレーズを使ったが、そこには、これまでのSAPではあり得ない体験を顧客に届けていくというメッセージが込められているようだ。