体系化されたクラウド・ソリューション「FUJITSU Cloud Initiative」
富士通フォーラムに先立つ5月14日に発表されたのは、富士通のクラウドソリューションの統合的な事業ビジョン「FUJITSU Cloud Initiative」である。ここ数年、クラウドコンピューティングは着実に普及しているが、そのニーズは基幹系システム、情報系システム、新規ビジネス創出など多岐に渡っている。「FUJITSU Cloud Initiative」は富士通がそれら多様な企業のニーズに対して、総合的な技術シーズや製品・ソリューションで対応していくためのコンセプトとしてまとめたものである。したがって、単体の製品や特徴的なシステム、サービスに象徴されるものではなく、あくまでインテグレーションである。クラウドといえば、従来はSI的なニーズと相反するものと思われがちだが、富士通は多様なクラウドのインテグレーション領域を、明確に競争優位領域として設定したといえるだろう。
3年間で3倍に成長した富士通のクラウドビジネスと人員シフト
ここ最近の日本の経済環境は、政府の金融緩和政策(いわゆるアベノミクス)によって好転の兆しが見える。現段階では、円安による為替効果や株価の上昇だがこれが、日本企業の本格的な回復につながるかどうかは、おそらく今後の産業の実体的な成長にかかってくる。こうした状況と課題から、語られるのがビジネスイノベーションだ。これまでもビジネスのキャッチフレーズとして多用されてきた感があるものの、おそらく現段階では最もビジネスに期待されるのが、イノベーションである。
「企業のICTニーズは、少し前のコスト削減/低価格型モデルから、ビジネスイノベーションを追求する価値創造型ビジネスモデルへとシフトしつつある。」(マーケティング部門副部門長 執行役員常務 川妻庸男氏)
そしてそのイノベーションを支えるキーテクノロジーがクラウドであると川妻氏はいう。実際、一時はバズワードと言われもしたクラウドだが、富士通は、2010年度に約500億、2011年度に約1000億、2012年度に約1500億と着実に3年間で3倍の成長を果たした。そして現在では「クラウドファースト」を掲げ、クラウドスペシャリスト100名、クラウドインテグレーター2000名へと体制を強化するのだという。
10種類の新サービス
FUJITSU Cloud Initiativeが追求する領域は、(1)トラステッド、(2)インテグレーション、(3)グローバルの3領域となる。トラステッドとは、セキュリティの領域。富士通の堅牢なデータセンターと完全冗長化したインフラ環境により、99.9998%のレベル(2012年度)、ISO27001取得、FISC準拠のセキュリティを実現している。
インテグレーションでは、2000名のクラウドインテグレーターによる複数のクラウドの導入、統合監視・運用サービスをおこなっている。また、グローバルでは、日本を含め100拠点以上のグローバルデータセンターを保有し、サービスデリバリ標準を策定し、31言語に対応したグローバルなサービスデスクを利用可能にしている(サービスプラットフォーム部門クラウド事業本部長 岡田昭広氏)。
今回の体系化で富士通は、10種のサービス(IaaS:2種、PaaS:4種、インテグレーションサービス:4種)を提供開始した。
(1)FUJITSU IaaS Trusted Public S5専用サービス
物理サーバ、ストレージ、ネットワーク環境のすべてをユーザー企業が専用で利用できるサービス。専用環境で社内のLANへの接続、システムコピー機能によるパブリック環境へのバックアップなど。政府/自治体やデータの格納先の特定を求められる金融業界などの規約/標準に対応できる。富士通の社内ではこの環境をSE開発環境として実践導入している。
(2)FUJITSU Cloud IaaS Private Hosted
基幹業務システムに対応したIaaSと運用サービスをセットで提供するもの。VMware、Hyper-V、ERP(SAP/Oracle)などの基幹システム環境を稼働率99.99%以上のIaaSプラットフォームとして提供する。
(3)クラウドインテグレーションサービス
クラウド導入アセスメントサービス、クラウド導入サービス、クラウド運用管理サービス、マルチクラウド環境の統合運用サービスの4種を一貫しておこなう体制を強化した。企画・提案では最速3日間、導入・稼働では最速2週間でツールの提供、スペシャリストの配置、オファリングまでをおこなう。
ツールとして強化されたのは、クラウド連携基盤用のPaaSのラインナップである。FUJITSU Cloud PaaS RunMyProcessによってシステム構築基幹を短縮し、FUJITSU Cloud PaaS Cloud Service Enablerによってクラウドサービスに必要な機能群(ID管理、契約/課金、マーケットプレイス、モバイル対応)を提供する。
富士通フォーラムで見せたクラウド、ビッグデータ、セキュリティの優位性
今回の富士通フォーラムで強調されていたのは、富士通のICTそのものがクラウドをベースにセキュリティ、コミュニケーション、ビッグデータといった技術分野との融合として進化していることだ。
展示会場では、ビッグデータやセキュリティ・ガバナンスなどのブースが賑わいを見せるとともに、オープンデータの社会的活用、健康・医療、食の未来などの社会的なイノベーションテーマが注目を浴びていた。
また、3Dプリンタによる製品の富士通内での試作導入の模様の展示や、バーチャル空間による製造シミュレーションや生産管理で中国よりも安いコストでの生産を実現するなど、新次元のモノづくりといった展示も人気があった。富士通の社会的な広がりをもつ事業領域が、様々なICT技術と連携し、クラウドを中心としたビジネス・イノベーションの可能性を感じさせた。