前回に引き続き、6月にサンフランシスコで行われたイベント「GigaOM Structure 2013」の2日目、6月20日のもようを写真を中心にご紹介していこうと思います。
ヴォーガス博士(AWS)やパット・ゲルシンガー(VMware)、ジェフリー・ディーン(Google)などビッグベンダのエグゼクティブが数多く登場した初日とはやや雰囲気が異なり、2日目はクラウドをメインインフラとするBtoC事業者のアプローチや、ベンチャーが開発するクラウドサービスについてのセッションが目立ったのが印象的でした。ここに出てくる企業は日本ではなじみのない名前が多いですが、スタートアップ/エンタープライズともに日本の数歩先を行く米国のクラウド事情が現場感覚で伝わってくる非常に貴重な機会でした。
2日目最初のセッションは、米国有数のデータセンター事業会社EquinxのCTOを務めるレーン・パターソン(Lane Ptterson: 左)氏と、SDNやインテリジェントネットワークに強いBTI Systemsのプラットフォームソリューション担当VP
チャンドラ・パンディ(Chandroa Pandey)氏による「エンタープライズのクラウド利用はなぜ進まないのか」というトーク。
パターソン氏は「3本足のスツールで、1本がぐらぐらしていると、それに座りたいと思わない。
いまのクラウド事業者がエンタープライズに提供しているクラウドはそれに近い」と信頼性の面での問題点を指摘。
パンディ氏は「クラウド間をつなぐパイプの存在がエンタープライズにとっては重要。彼らは別にいつも同じ経路を通りたいと思っているわけじゃない。ただ、エクスプレスウェイを通るのか、それともハイウェイを通るのかくらいはわかるようにしてほしいと思っている」と解説し、ユーザがアクセスを定義(define)しやすい環境が必要としている▼
セッションのモデレータはたいていGigaOMの関係者が務めるのだが、このセッションに関してだけは別。
右の赤いパーカーの若者は、クラウド(AWS)ベースでビッグデータサービスを提供するシリコンバレーのベンチャー
ScalrのCEO セバスチャン・スタディル(Sebastian Stadil)氏。
なぜ彼がモデレータを務めたかというと、
2013年前半、GigaOMで最も反響があり、議論を巻き起こした(=炎上した)記事を寄稿したから。
記事の内容はAmazon EC2とその対抗馬Google Compute Engineのベンチマークについて書かれている。
この内容を受けて「クラウドベンチマーキング」というタイトルで、
AWSを利用してコンシューマにサービスを提供する大小2つの企業
- Netflixのクラウドソリューション担当ディレクター アリエル・ツェイトリン(Ariel Tseitlin: 中)氏と、
BranchOutのテクニカルオペレーションディレクター ジェレミー・コーバー(Jeremy Koerber)氏が、
それぞれ自社における運用について語った。
Chaos MonkeyやAsgardなどいくつものAWS用オープンソースツールを開発していることで知られるNetflixだが、
同社にとってクラウドインフラにかかるコストはそれほど大きなものではない。
「正直、我々はかなり高い"パイオニア税"を払っていると思うよ。
でもAWSに相当するケイパビリティをもったクラウドベンダはないんだ」とツェイトリン氏。
一方でBranchOutのような小さな企業にとってはAWSのコストは決して安いものではない。
「RDSやDynamoなんてとても使えない。
EC2の上でオープンソースを使いながらせっせとシステムを構築しているよ」(コーバー氏)とけっこう泣ける話も。
「別にAWSにロックインされているわけじゃないが、AWSよりいいものがなかなかない。
GCEには期待しているけど、まだ成熟しているとは言いがたいかな…」とコーバー氏。
なんだかんだ言ってもやっぱりAWSが一番という結論でした▼
日本からのユーザも増えつつあるオンラインストレージサービスのBoxでエンジニアリング担当VPを務める
サム・スキラッチェ(Sam Schillace: 左)氏はGoogle Docsの最初の開発メンバーとしても知られる。
現在、PHP、MySQL、そしてAWSの各種サービスを使っているというBoxだが、
近い将来にもオープンクラウドアーキテクチャのOpenStack Swiftをベースとしたシステムにシフトする予定とのこと。
ただしAWSから完全に離れるようなことはなく、たとえば長期間のアーカイブに適したAmazon Glacierなどは
バックアップ用に利用し続けることになるだろうとしている。
もっとも「Swiftを利用するサービス事業者はまだほとんどない。ということは我々が最初の存在となる。
そういう面でのリスクは正直、あんまり取りたくはないけどね」と本音を覗かせる場面も。
リスクテイクが怖いのは米国のベンチャーだって同じなんですね▼
PayPalのような大規模トランザクションを抱える企業がどんな技術を使っているのか、誰でも非常に興味があるところ。
PayPalのプラットフォームエンジニアリング担当VPのライアン・グラナード(Ryan Granard)氏は
「193カ国で1億2300万ユーザ、1日あたり800万ドルの取引、秒間5300回の支払いが発生」
と同社の規模の大きさを説明する。
そしてその膨大なデータを処理するため、オンプレミスのPaaSを構築中、
現在20%のトラフィックがOpenStackで稼働しており、その上にRed HatのOpenShiftで構築するPaaSを走らせ、
アプリケーション開発を行っているという。
「我々の規模になるとパブリッククラウドベンダが提供するインフラではあらゆる面でニーズを満たせなくなる。
もっともAWSと組む可能性が将来的になくなったわけじゃない」とAWSへの配慮もちらり▼