創造社会(クリエイティブ・ソサエティ)の到来
最後に、創造的な組織づくりが重要となる時代背景にも触れておくことにしたい。組織を創造的な体質に変えていく必要があるのは、これから社会のあり方が変わり、クリエイティブな方向へとシフトするからである。
これからどのような変化が起きるのかをイメージするために、私は時代の変化を「C」から始まる3つのキーワードによって捉えている。それは、Consumption(消費)、Communication(コミュニケーション)、Creation(創造)である。そして、このキーワードをもとに、社会の変化を「消費社会」、「コミュニケーション社会(いわゆる情報社会)」、「創造社会(クリエイティブ・ソサエティ)」と呼んでいる。
アメリカでは1920年代以降、日本では戦後、物やサービスを消費することが豊かな生活であるという「消費社会」があった。そして1990年代後半からは、情報化によってコミュニケーションに重点が置かれるようになる「コミュニケーション社会」へと移行してきた。いわゆる情報社会である。人びとがインターネットや携帯電話を用いてコミュニケーションをとることに関心を持ち、多くの時間を使っている社会である。そしてこれからは「創造社会(クリエイティブ・ソサエティ)」、つまり何かを「つくる」ということが生活のなかで大きなウェイトを占める社会へと移行すると、私は考えている。
創造社会は、人々が自分たちで自分たちの認識・モノ・仕組みを「つくる」社会である。そしてそれは、自分たちで自分たちの未来を創造する社会でもある。創造社会では、企業等の組織だけでなく、一般の個人が「創造」を担う。「つくる」ということが日常のなかに、ごく当たり前に埋め込まれるようになるのである。実は、現在でもその萌芽はさまざまな分野で垣間見られる。それが全面展開すると思えばよいだろう。
誰かがつくったものを消費するだけでも、それについてのコミュニケーションを図るだけでもなく、自分たちで「つくる」という社会、そのような創造的な社会が到来する。そうであるならば、組織のあり方もそれに合わせて変わっていかざるを得ない。それが、創造的な体質へと変わる「クリエイティブ・シフト」が不可欠な理由である。
かつてファンタジー作家のミヒャエル・エンデは、「創造的であるというのは、要するに、人間的であるということにほかならない」と述べた。この言葉を借りるならば、クリエイティブ・シフトとは、機械的な組織観から人間的な組織観へとシフトするということを意味していると言える。組織に関わるすべての人が「より創造的=より人間的」になり、組織のあり方も「創造的=人間的」という特性が発揮されるような方向へとシフトする。このようなクリエイティブ・シフトの可能性をみなさんと一緒に探究していきたい。
本連載では、創造的な組織づくりのためにパターン・ランゲージを「どのように役立てることができるのか」という点から、かなりプラクティカルに紹介する。パターン・ランゲージの思想や歴史については、『パターン・ランゲージ ― 創造的な未来をつくるための言語』(井庭崇 編著)を併せてお読みいただければと思う。また、創造活動を支援するパターン・ランゲージを具体的に知りたいという方は、『プレゼンテーション・パターン ― 創造を誘発する表現のヒント』(井庭崇+井庭研究室・著)をご覧いただくと、そのイメージが持てるのではないかと思う。
それでは、次回をお楽しみに!