イノベーションのための手法やプロセスが実際に活用され、実りある成果を生むためには、組織が「創造的な体質」になっている必要がある。それでは、どうすれば組織の体質を変え、創造性が発揮される状態をつくることができるのだろうか?本連載では、組織を創造的な体質に変える「クリエイティブ・シフト(Creative Shift)」の方法について考えていく。特に、「パターン・ランゲージ」という新しい方法を導入・活用した創造的な組織づくりの実践について紹介する。
組織を創造的な体質に変える「クリエイティブ・シフト」
「現在のような変化の時代においては、イノベーションが不可欠である」ということが言われるようになって久しい。新しい手法やプロセスが雑誌やセミナーで紹介され、国内外の成功事例もしばしば話題にのぼる。しかし、自分の組織で実際に取り入れようとした結果「うちではとても無理」と断念した経験や、やってみたが「あまりしっくりこなかった」という経験をもつ人も多いのではないだろうか。
創造的な発想を引き出す手法やイノベーションを起こすためのプロセスは、導入すれば確かに何らかの効果はもたらすだろう。しかし、それらが本当に日々の活動に活かされて成果を生み続けるためには、ひとつの(隠された)前提条件がある。それは、その組織が創造的な手法やプロセスを活用できる「体質」である、ということだ。そのような体質でない組織では、手法やプロセスの導入が一時的な刺激にはなっても、継続的な成果につながることはない。
このことは、植物を育てることに似ている。いくら「育て方」に気を配ったとしても、豊かな土壌がなければ、大きく成長して花ひらき、実を結ぶということはない。同様に組織においても、手法やプロセスという「育て方」だけでは、創造性の種から芽が出ることはなく、埋もれてしまうことになるのである。実は、このことに気づき始めている人は多いように思う。しかし、「それでは、どうしたらよいのか?」ということに対する答えを見出せないでいるというのが現状ではないだろうか。

本連載では、組織が創造的であり続けるための土壌を育む方法について考えていく。目指すのは、自分たちの組織を創造的なモードにシフト(転換)させることである。このシフトを、本連載では「クリエイティブ・シフト(Creative Shift)」と呼ぶ。クリエイティブ・シフトは、製品やサービスの開発におけるイノベーションに直結するものではないが、創造的な組織づくりという、深いレベルでの組織変革につながるのである。
それでは、クリエイティブ・シフトを実現するためには、どうすればよいのだろうか?次ページ以降では、私が有力だと考えている方法について紹介したい。
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井庭 崇(イバ タカシ)
慶應義塾大学総合政策学部准教授。博士(政策・メディア)。専門は、パターン・ラン ゲージ、システム理論、創造技法。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院 Center for Collective Intelligence 客員研究員等を経て、現職。編著書・共著書に『複雑系入門――知のフ...
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