ケン・システムコンサルティングが主催する「第17回Xupperユーザ事例紹介セミナ」が、2013年11月に開催された。上流分析・設計ツールXupperが誕生したのは1994年。今年でリリースから20年目を迎え、本セミナーも恒例の年間イベントとして定着した。今回は、まず基調講演にICT経営パートナーズ協会会長/超高速開発コミュニティ会長の関隆明氏が登壇し、「我が国のIT化の問題点とこれからのIT部門およびITベンダーの果たすべき新しい役割」をテーマに講演。続いて、NTTデータ東海の米子康恵氏は保守・メンテナンスおよびシステム更改について、ビジュアルジャパン山田篤廣氏はベトナムでのオフショア開発について、それぞれXupperを活用した自社の取り組みを発表した。本記事では、関隆明氏の基調講演の内容を紹介する。
日本企業のIT活用が遅れている原因に目を向ける
日本の労働生産性はOECD加盟34か国中19位。主要先進国7か国で最下位の位置にある(日本生産性本部、2011年調査結果)。その原因として長らく指摘されているのが、企業におけるIT活用の遅れである。
特に大きな問題点として、関氏は次の2点を挙げた。1つは、システム構築など「IT化」自体のスピードの遅さ。そしてもう1つは、経営目標とITとの不整合だ。
こうした状況を引き起こしている要因に、ウォーターフォール型個別開発への偏重がある。高額な初期投資や開発期間の長期化が、スピーディなIT化の実現を妨げる足枷になっているのは明らかだ。本番稼働後の変更には大変な手間がかかるため、経営環境の変化への迅速な対応も難しい。
また、ユーザ側のイニシアティブ欠如も、要因として挙げられる。米国などと比べて日本のユーザ企業はITベンダーへの依存度が高い。時には、自社のIT戦略策定に関わる部分から任せきってしまう極端な「丸投げ」も見られる。この結果、経営のニーズにマッチしないシステムが生まれることになる。
多様なIT調達法を目的に合わせて使い分ける
このように硬直化したシステム・IT環境からの脱却を図るには、「今こそ好機」だと関氏は強調する。その理由は、クラウドをはじめとして、IT調達の手段が多様化してきているからだ。
高度大型システムや企業固有の戦略的システム開発においては、今後も従来のウォーターフォール型開発が必要となるだろう。それ以外では、パッケージの活用やクラウドの活用、さらにはBPOの活用などの選択肢がある。特にフロントエンド系情報システムではクラウドの活用が大分進んできているが、これからはバックエンド系業務システムに、どこまでクラウドサービスの利用が進んでくるかが注目される。
さらに個別開発でも、最近ではノンプログラミングの自動生成を基本とした「超高速開発」のように新しいメソッド/ツールが登場している。超高速開発なら、自社固有のノウハウを含む戦略的システムも調達(開発)可能だ。
こうした多様なIT 調達法を、目的とするシステムの種類に合わせて使い分けていくことで、IT化のスピードは大幅に向上できるだろう(図1)。
ユーザ企業とITベンダー、それぞれが果たすべき役割
経営目標とITとの不整合をなくすには、やはりユーザ企業がイニシアティブをとってIT化を推進する必要がある。具体的には、まず、経営トップのビジョンや企業戦略に則ったビジネスモデルの策定、その実行のためのビジネスプロセスの確立が求められる。そして、RFPの作成およびそれに沿ったSIerの選定やリソースの調達なども、自身の役割として主体的に行わなければならない。
もちろん、ITベンダー側にも課題はある。ISVなら、グローバルに見てコアコンピタンスたりえるソフトウェアを持つことや、唯我独尊に陥らずに他ベンダーのソフトとの共用性を重視した開発が重要であることを、関氏は指摘。また、SIerは上流工程への対応力を強化してプライム機能を強めることが必須であり、システムインテグレータから「サービスインテグレータ」への脱皮を図るべきとした。
ユーザ企業とベンダーや専門家のマッチングを支援
日本の企業が生産性を向上し、激しいグローバル競争の中で生き残っていくためには、企業力強化に直結するICTを徹底的に活用した経営を実践していかなければならない。関氏が会長を務めるICT経営パートナーズ協会(ICTM-P)では、その支援のためにさまざまな団体・組織と連携し、専門家集団(パートナーズ)を形成。 幅広くユーザ企業の相談に応じ、さまざまな業種別・手法別の専門家との的確なマッチングを行っているという(図2)。
また、ICTM-Pではテーマ別の分科会も組織しており、常に先進のメソッドやツールの有効な活用策を追求している。その1つが「超高速開発分科会」であり、活動の一環として、2013年8月にはツールベンダーなど十数社が参画する「超高速開発コミュニティ」を設立した。
自社の業務にマッチしたクラウドやパッケージが必ず存在するとは限らないが、超高速開発では自社固有の要件にもスピーディに対応できる。現場の知見を取り入れながらシステムを柔軟に成長させていけるという点でも、日本の企業にはより適している手法といえるだろう。
超高速開発コミュニティではベンダーだけでなくユーザ企業の参加も広く募っているので、関心のある企業はコンタクトを取ってみてはいかがだろうか。
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