HPのサーバー戦略は原点回帰でR&Dに投資するところから
2014年からはHPの復活の年であり、そんな中で同社はモビリティー、クラウド、ソーシャル、ビッグデータという4つのメガトレンドに対応していく。これら4つのメガトレンドに対応するために、これまでは企業買収などで新たなテクノロジーを手に入れてきた。その結果が良いものもあれば、あまり芽が出ず活性化していないものもある。
M&Aをやめるわけではないが、今後はどうしていくのか。
「コアテクノロジーの変革、R&Dに対する投資を最大化していきます」(手島氏)
これは、テクノロジーベンダーとしての原点回帰でもあり、研究開発を行い自らコアテクノロジーを生み出す意思表示でもある。中でもコア事業となるのが、サーバー。この領域でどうリーダーシップをとっていくかが、今後の課題となる。
「テクノロジーの進化なくして、サービスの進化はありません。技術がなければ、新しいトレンドには対応できません。HPはR&Dに回帰し、サーバープラットフォームを再定義していくベンダーになります」(手島氏)
さて、その再定義したサーバープラットフォーム戦略の1つが、昨年発表された「Project Moonshot」。カートリッジ型の「かなり小さなサーバー」を高密度に搭載し、新たなハイパースケールサーバーを提供している。今回は新版となるリモートデスクトップ環境を構築するHP ProLiant m700と、動的Webのワークロードに対応するHP ProLiant m300の2機種を発表した。
m700は、1つのカートリッジに独立した4ノードを実装し、4.3Uの専用シャーシに45カートリッジで合計180ノード実装できる。これを用いHDI(Hosted Desktop Infrastructure)を実現する。HDIはVDI(Virtual Desktop Infrastructure)のように仮想化技術を使うのではなく、リモートデスクトップに物理的に1ノードを割り当てる。これにより、隣の人が重たい処理となる動画を扱っていても、自分のリモートデスクトップには影響のない環境が手に入る。
m300は、CPUにインテルAtomプロセッサを搭載したサーバーカートリッジだ。最新のCPUとなり、CPU性能は既存製品に比べ最大で7倍となる。モバイル端末向けのAtomを利用することで極めて高密度化し、スペースも発熱量も劇的に小さくしたMoonshotだが、2013年に提供を開始した初期モデルはさすがにサーバーとしては非力だった。なので、顧客からもう少しパワーのあるモデルが欲しいとの声があり、m300はそういった要望に応えるものだ。
これらMoonshot Systemは、単なる「高密度なサーバー」ではない。高密度の汎用サーバーであるブレードサーバーとは異なり、リモートデスクトップや動的Webのワークロードのように、特定ワークロードの処理に特化したハードウェアであることが最大の特長だ。リモートデスクトップならばそれに必要なメモリー、動的Webであれば必要なネットワークリソースなど、それぞれの目的に最適化されたハードウェアを設計となっている。ソフトウェアをあらかじめ搭載してはいないが、利用目的が明確化している点ではアプライアンス的な製品と言えるかもしれない。
ところでこのMoonshotの競合は、どんな製品だろうか。他社ブレードサーバーなのか。じつは発表会でも関連質問が出ていたが、競合としてはAmazon WorkSpacesが挙げられる。ユーザー企業はいまや、積極的にハードウェアを選択していない。欲しいのは高密度なサーバーではなく、リモートデスクトップ環境。そうなったときにMoonshotを選ぶのか、クラウドのリモートデスクトップ・サービスであるAmazon WorkSpacesを選ぶのか。対ブレードサーバーであれば、高密度の度合いや消費電力量の少なさなど比較しやすい。しかし、相手がクラウドサービスとなると、同じ土俵で比較するのは難しい。
こう考えるようになると、ハードウェアビジネスはかなり難しい時代になった。より高性能で効率的なサーバーに明らかに優位性があった時代から、サービスを実現するために最適な方法は何か、そのために必要なインフラはどんなものかを考える時代に。ベンダーは、サーバーを売るために全く新しい活用シナリオを提案する必要がありそうだ。