SAPは本格的にデータベースの会社に
ところで、いまだにSAPと言えばERPの会社というイメージが強い。しかしながら、現状の売上比率はだいたい7:3でNon-ERPの売り上げが多い。これは、グローバル全体の傾向。日本は、2013年の初頭まではこのような割合に至っていなかった。「Non-ERP部分は、日本も昨年までにだいぶ改善できました」と、安斎氏。実際に2013年は、Non-ERPの売り上げ割合は68%にまで増加、ほぼグローバルと同じレベルに達している。SAPのビジネスすべてがNon-ERPにはならないが、今後は70から80%がNon-ERPという割合でビジネスは推移するだろうとのことだ。
そのNon-ERPビジネスを牽引しているのが、インメモリーデータベースのSAP HANAだ。これについては、グローバルの成長率がプラス69%なのに対し、日本はプラス130%とむしろグローバルを大きくリードする。また、調査会社の数字では、データベース市場全体の伸びが7%程度となっている中、SAP HANAは20%程度の伸びを示しており、まだ母数が小さいとはいえさらなる成長が期待される。
「SAPは、いよいよ本格的にデータベースの会社になりました。新規のSAP ERPのデータベースは、HANAの採用が5割を超えています。HANAの採用のうち、3割はOLTPでの利用です」(安斎氏)
当初はデータウェアハウスの検索など、参照中心の用途でなければ使えないと思われてきたインメモリーデータベース。それが、OLTP用としても使える。それも企業の基幹系システムであるSAP ERPのデータベースで使えるのは、インメモリーデータベースの利用拡大を後押しする要因だ。
SAPに追随するようにマイクロソフト、オラクルもインメモリーデータベースの提供を発表している。こういった動きも、インメモリーデータベース市場拡大に寄与するだろう。これら既存の大手データベースベンダーの参入を、ライバルが増えると警戒するのではなく、むしろ歓迎すると安斎氏は言う。
とはいえ、今後マイクロソフトやオラクルがインメモリーデータベースの世界に本格参入すれば、競争が激化してくるのは確か。既存のインストールベースが多い彼らが、優位な形でレースを進めることは容易に想像できる。全くの新規でアプリケーションを動かしたいなら、SAP HANAを採用するのにもそれほど障壁はないだろう。しかし、既存システムを移行する際に、インメモリーデータベースを使いたいという理由でSAP HANAに乗り換えることを、躊躇する企業は多そうだ。
もう1つの懸念は、ISVなどのアプリケーションの対応。多少手を加えれば、SAP HANAでも問題なくそのアプリケーションは動くかもしれない。しかしながら、動くこととISVがその状況を正式にサポートするかは別。稼働データベースとして正式に認証されるかは、企業が選択する際には重要な要素だ。
この課題をクリアするためにSAPは、SIベンダーなどが日常的に提案しているアプリケーションが、SAP HANA上でも正式サポートされるようにする活動もしていかなければならない。今後のインメモリーデータベースの競争は、速さなどの性能や機能の争いから、こういったIT業界の政治的な争いの世界に移行していくだろう。
SAPのもう1つのビジネス戦略上の注力ポイントがクラウドだ。昨年4月、それまでSAP HANAの日本の顔だった馬場 渉氏を事業部長に「クラウドファースト事業本部」を設立。日本でのクラウドビジネスへ本腰を入れて取り組みを開始した。
その時点での日本におけるクラウドサービスの顧客数は40社。安斎氏は当時、顧客数を3桁まで伸ばしたいという目標を口にした。実際に2013年末までには顧客導入数は100社を超え、見事に目標を達成したことが報告された。
クラウドビジネスのハイライトとしては、クラウド型ERPであるBusiness By DesignをNECが世界初の取り組みとして扱いを開始し、主に東南アジアに進出する日系企業に向けてサービスを提供している。また、パソナとの協業で人事領域のBPO(Business Process Outsourcing)サービスをクラウドで提供開始している。さらには、HANAクラウドをIIJが提供開始するなど、2013年はクラウド関連のトピックスが一気に増えている。結果的に2013年のクラウドの成長率は、グローバルがプラス130%のところ、日本はプラス400%と一気に拡大したのだ。