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EnterpriseDBがPostgreSQLを選んだ理由―OS界の変革をデータベースの世界でも


 DB Onlineの読者ならば、EnterpriseDBという名前はご存じだろう。PostgreSQLに付加価値を提供することで、ここ最近は順調に売り上げを伸ばしている新しいデータベースベンダーだ。同社のCEOを務めているEd Boyajian氏の以前の職場はRed Hat社。同じオープンソース・ソフトウェアを用いビジネス展開する企業であり、「Red HatがLinuxで起こした変革と同じものが、データベースの世界でも必要だと考えました」と言う。

すべてのOracleをPostgres Plus Advanced Serverに乗り換えてもらえたら嬉しい

「最大約80%のコスト削減を実現する」
「最大約80%のコスト削減を実現する」

 EnterpriseDBが選ばれる最大の理由は、もちろんコストだ。

 「EnterpriseDBは、最大80%のコストを削減します。削減した分を、ビッグデータ活用などのイノベーションに使って欲しい」(Boyajian氏)

 Oracleとは最近あまり仲が良くないHPは、社内システムのデータベースをPostgres Plus Advanced Serverへと移行を開始しているそうで、その過程でROIが270%改善したとの試算もあるとか。

 EnterpriseDBには、このOracleとの互換性機能があるPostgres Plus Advanced Serverと、PostgreSQLにエンタープライズで利用するための各種機能を追加するPostgres Plus Solution Packといった製品があるが、ビジネスの70%は前者のOracleとの互換性部分とのこと。

 Oracleとの互換性機能として、PL/SQLも用意されている。基本的にOracleでいま動いているアプリケーションを、移行のために書き換える必要はない。互換性機能を使う場合にも、素でPostgreSQLを使うのと比べ性能的なオーバーヘッドはほとんどない。そして、互換性機能を加えているとは言え、オープンソースのPostgreSQLとの互換性は100%確保されている。

 「市場のほとんどのOracle環境とは、互換性があるはずです。それら全部が乗り換えてくれたら嬉しい」(Boyajian氏)

 エンジニアのスキル面はどうなのか。PostgreSQLのスキルがないと、Postgres Plus Advanced Serverは使いこなせないのだろうか。

 「PostgreSQLのデザインは、Oracleとよく似ています。なので必要なスキルもOracleとよく似ています。日本の法人でセールスサポートをしているエンジニアもOracle出身ですし、EnterpriseDBにはOracle経験者がたくさんいます。Oracleのあの機能はPostgreSQLのあれというように対応させながら理解できるので、Oracleのエンジニアであればすぐに慣れます」(Boyajian氏)

ISVアプリケーションへの対応、ブランディングが今後の課題

 多くのアプリケーションは、Oracle Real Application ClustersなどOracle特有の機能に依存しているとかでなければ、比較的苦労なくPostgres Plus Advanced Serverへ移行できるかもしれない。とはいえ、アプリケーションがそのデータベースで動くことと、アプリケーションがその環境で正式にサポートされることは違う。

 ISVが提供するアプリケーションは、ISVがPostgres Plus Advanced Serverを稼働データベースとして正式に認証しなければサポート対象にならない。それでは企業は、採用を躊躇する。顧客が開発したアプリケーションならば、自分たちや開発会社が責任を持てばいい。とはえい、このアプリケーションはサポートされるがこっちは駄目となれば、保守管理の手間は増えかねない。

 今後本格的にPostgres Plus Advanced Serverが普及を拡大するには、市場で評価され売れているISVアプリケーションから正式に認証される必要がある。

 「ISVパートナーに対しては、積極的にアプローチしていきます。2014年中には、新しいパートナーシップ・プログラムも発表したいと考えています」(Boyajian氏)

 自社が提供するアプリケーションよりも、一緒に使う商用データベースのライセンス費用が高く、システム全体のコストが膨らむために顧客の採用が進まないと考えるISVベンダーもいる。コストの安いデータベースを受け入れる需要はあると、Boyajian氏はISVパートナー戦略に自信を見せる。

 もう1つの課題は、ブランディングだ。PostgreSQLは知っていても、EnterpriseDBは知らないIT担当者もまだまだ多いのが現実。

 「今後は、良い目立ち方をしたい。過去2年間くらいは、かなり慎重に活動してきました。それにより、パートナーには認知されました。今年から来年にかけては、どう認知を伸ばしていくかが課題です」(Boyajian氏)

 オープンソース・ソフトウェアに携わるエンジニアには、オープンソースソフトウェアだけで課題を解決したいと考える人も多い。EnterpriseDBはそこで、対価をもらうビジネスモデルを構築している。お金をもらえるモデルがないと、結果的にはオープンソースコミュニティの活動は活性化しないともBoyajian氏は言う。対価として得たものを(お金だけでなく開発リソースも含め)、コミュニティ還元する。そういう流れができることで、コミュニティ活動に良い流れができるのだと。「エンジニアにもEnterpriseDBが提供する価値を、是非理解してもらいたい」とBoyajian氏。

 今後のEnterpriseDBの方向性としては、技術的にはパフォーマンスと拡張性が重要なテーマであり、そこにはさらに投資をしていく。さらに、JSON型の非構造型データの扱えるドキュメントデータベース機能も鍵となる。「MongoDBやHadoopなどとは、なんらか技術的な提携関係を結んでいきたいと考えています」とのことだ。

 もう1つは、クラウド対応だ。まだビジネスとしては規模は小さいが、成長率はかなり高い。サブスクリプション型の利用料で、1年間といった長い期間ではなく1時間といった小さな単位で使える。データベースのスケールアウトも自動的に行えるエラスティックなデータベース環境であり、開発時や移行の初期段階といった際にも利用しやすい。

 現時点で、Oracleなどの商用データベースには、機能的にも性能的にも一日の長があるのは確かだろう。とはいえ、自社システムのデータベースに他の選択肢がないわけではなない。まずは、「EnterpriseDBでもいいのでは」という考えで検討するのもいい。次のステップでは、「EnterpriseDBがいい」として選ばれる進化を期待したい。

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この記事の著者

谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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