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デザイン人間工学--魅力あるサービス構築のために

大阪ガス行動観察研究所株式会社(旧株式会社エルネット)セミナーレポート:第3回

 顧客に選ばれる製品・サービスを考えるうえで、重要なカギを握るのが「ユーザー経験の価値」の実現だ。そのアプローチにおいて、ユーザーを深く理解し、「デザイン人間工学」という視点からデザインを構築することが有効と考えられる。本セミナーでは、京都女子大学 家政学部 生活造形学科 教授である山岡俊樹氏が、具体的な事例に基づきながら「デザイン人間工学」の視点や手法について紹介を行った。

論理的に考え、フレームワークを用いて発想する

 製品やサービスを考える際のアプローチとして、山岡氏はまず「論理的に考えること」をあげる。何かを考える時、デザイナーもエンジニアも形から入りがちだ。しかし、形にとらわれ本質的な目的やコンセプトから逸脱しやすく、修正に時間がかかる。顧客の価値から目的やコンセプトに落とし込み、論理的に考えることが重要だ。

 そして「発想力を高めること」も秀逸なモノづくりには欠かせない。とはいえ、思うままの発想は網羅性に欠け、見落しも多い。タスク分析などのフレームを活用して網羅的に発想し、構造的に考えることで本質を理解することが必要だという。山岡氏はこの「論理的に考えること」と「発想力を高めること」の両者において、デザイン人間工学の知識が効力を発揮すると語る。

 たとえば、ワークショップはアイデアを出すための一般的なアプローチ法として定着している。さまざまな知識や発想を共有し、気づきをもたらす効果があるが、参加者の知識レベルに依存し、網羅性に欠けることもある。むしろ知識を増やし、フレームワークに基づいて考えれば、一人で適切なアウトプットが容易に出せるようになるという。

 つまり、優秀なデザイナーやエンジニアはセンスだけでなく、論理的な発想や構造的な考え方を内側に持っているというわけだ。このモノづくりの基本となる考え方を外在化し、体系化したのが「デザイン人間工学」なのである。

「経験価値」を実現する「デザイン人間工学」によるアプローチ

 モノづくりの歴史において、かつては左脳的な工業化社会による「要素還元主義(analytic)」が主流だった。しかし情報化社会となり、近年では右脳的な「全体論(holistic)」も重要性を増し、両者の融合が不可欠になっているという。米国人間工業学会では、安全性や機能、目的などが重視された「技術・人間中心主義」から、21世紀には楽しい経験や自己実現などが重視される「経験・価値中心主義」へと変わりつつあると分析している。たとえば、レストランが「空腹を満たす場」から、「楽しい時間を得るための場」へと変わっているわけだ。

新しい人間工学(HFES:米国人間工学会)
▲ 図1:新しい人間工学(HFES:米国人間工学会)
引用:Peter A.Hancock ,Aaron A.Pepe, Lauren L Murphy, Hedonomics : The Power of Positive and Pleasurable Ergonomics, Ergonomics in Design, pp11,No l, Vol 13,2005

 製品単体ではなく、それがもたらす価値や効果まで含めた「トータルなシステム」として検討し、新たな製品やサービスを考える。単純なシステムであれば発想だけで実現できるかもしれない。しかし複雑になればなるほど、フレームワークなどの論理性が不可欠となる。山岡氏は「一部の天才的なプロがブラックボックスで行っていた『つるかめ算』的なものを、『方程式』を用いることで誰でも解を出せるようにする」とデザイン人間工学を学ぶ価値について語る。

 まず、デザイン人間工学的を用いたアプローチで大切なのが「順番」だ。人は誰でも形から取り掛かる傾向にある。そこを起点に試行錯誤し、正解へと近づけていくアプローチが一般的だろう。しかし、検討漏れが多く、調整にも時間がかかる。

 一方、制約条件や定義を固めてから、形にするという順番にすれば、より短期間で的確な解を導くことができる。情報を入手し、理解・判断し、操作、分析して可視化する。その際に人間工学の知見が役立ち、知識を得ることで、より精度の高い「よいもの」ができる。

 それに対し「“発想が先”のほうが斬新なアイデアが出る」などの意見もあるだろう。しかし、山岡氏は「人は自由に発想しているように見えて、既に現在の制約の中でアイデアを出している」と反論する。それを意識しようとするか、無意識のままで行うかの違いにすぎないというわけだ。

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デザインと人間工学の両面から、トータルシステムを考える

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この記事の著者

伊藤真美(イトウ マミ)

フリーランスのエディター&ライター。もともとは絵本の編集からスタートし、雑誌、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ビジネスやIT系を中心に、カタログやWebサイト、広報誌まで、メディアを問わずコンテンツディレクションを行っている。

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