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シスコシステムズのBreissinger氏、データ仮想化の先進事例を紹介

 データ仮想化は、物理的に分散して存在するさまざまなデータソースを仮想的に統合し、1つのビューからあらゆるデータを取り扱おうというアプローチ。このテクロジーを推進する、米シスコシステムズのデータ仮想化ビジネスユニット ディレクター Marc Breissinger氏が来日し、6月27日に開催された『データサイエンティストサミット2014』で講演を行なった。

IoEやクラウドの進展で注目を集めるデータ仮想化

シスコシステムズ インクデータ仮想化ビジネス事業 ディレクター Marc Breissinger氏

  仮想化といえば、サーバー仮想化にはじまり、近年ではネットワーク仮想化、ストレージ仮想化などITのインフラのレイヤーで様々に浸透している。そうした中で、シスコシステムズが提唱しているのは「データ仮想化」である。 シスコシステムズは昨年、データ仮想化テクノロジーを提供していたComposite Softwareを買収した。シスコはInternet of Everything(IoE)というコンセプトで人、モノ、プロセスを有機的に結び付け、インターネットの新しい時代を提起している。こうした中でシスコでは、データ仮想化をIoEに対する有効な手段の1つとして展開している。

 データ仮想化へのニーズの高まりの背景には、データサイエンスやビッグデータといった今日のトレンドがあるのはいうまでもない。日本でも同じだが、米国でもこうしたトレンドが浮上してきたのは、「データソースのサイロ化」という事情である。Breissinger氏はそのあたりの状況を次のように説明する。

 「企業は、RDBMSなどのトラディショナルなデータソースにくわえ、HadoopやNoSQLからのデータソース、AWSやSalesforce.comといったクラウドサービスからのデータソース、マシン生成のデータソースなどを効率的に扱う必要が生じてきた。増大するデータをうまく活用すれば、企業やビジネスリーダーは優れた結果を出し、競争優位性を確保できる。しかし、今日では、データソースがバラバラの状態で管理されており、活用までのコストや手間がかかっているのが実情。データ仮想化はこうしたビジネスのニーズに対応するために生まれた」

 では、従来から行われてきたデータ統合やDWHとは何が異なるのか?運用されるRDBMSのデータはETLによってDWHなどに展開されBIツールなどを使って経営分析などに利用されてきたが、こうしたアプローチでは、最近のHadoopが扱う大量データやクラウドサービスで提供されるSalesforceなどのデータを扱うことは難しい。様々なデータソースにアクセスできるBIツールなども登場しているが、追加のコストや手間がかかる。ビッグデータを活用するためにデータを蓄積し、分析のための体制を整え、ツールの使い方や統計やデータサイエンスのスキル、ノウハウを習得している間に、ビジネス動向が変わってしまうこともある。

 「データソースが増えるたびに、データをあらためて収集し、加工し、分析するといったことに取り組むのは効率的ではないし、ROIも悪い。結果的に、ビッグデータ向け分析基盤が“新たなサイロ”になってしまう場合もある。我々の提案は、これまでのようにデータをコピーしたり、どこかにレプリカを作ったりするのではなく、データに対して直接アクセスし、それをシングルデータ・ソースのように1つのビューで見せることで、データをオンデマンドで活用できるようにしようというものだ」

 具体的には、さまざまなデータソースのうえにデータ仮想化レイヤーという抽象化レイヤを設け、異種データを論理的に1つのデータソースとして扱えるようにするというシンプルなソリューションになる。既存のDWHのスキーマを変更したり、アプリケーション改修したりといった手間やコストも不要で、導入初期から成果がでやすいのが特徴だという。

データ仮想化ソリューション

 データ仮想化は実際にどんなシーンで用いられ、どんな成果を上げているのか。Breissinger氏は、リスク分析に適用して収益を改善させた英バークレイズ銀行(Barclays)、顧客1人あたりの収益向上につなげている米ケーブル最大手のコムキャスト(Comcast)、石油採掘と精製にかかわる機器のサプライチェーン最適化に活用しているある石油会社の事例を紹介した。

データ活用がビジネスと直結

 バークレイズ銀行は、債権のトレーディングで取引がどのくらいのリスクがあるかを分析し引当金の額を決めている。アルゴリズムを使ってリスクをどれだけ正確に予測できるかがカギになる。それによって引当金の額が変わり、収益に直結するからだという。そこで、リスク分析のアルゴリズムをより正確なものにするために、分析に使うデータを拡充することにした。

  従来はOracle Exadataに最新30日分4億レコードのデータを格納していた。30日を過ぎた分は、過去5年分をテープに保存しオフラインで管理し、アルゴリズム作成のためには使用していなかった。そこで、まず、テープに保存していた5年分の過去データをHadoop基盤に移行して、即座にアクセスできるようにした。次に、ExadataとHadoopの上にデータ仮想化レイヤーを導入し、データを統合化して分析できる基盤を作った。

 「SQLでExadataとHadoopのデータの両方にアクセスできるようになったことがポイントだ。バークレイズのアナリストは特別な技術を習得する必要もなく、テープによるバックアップコストとHadoopの構築コストがほぼ同等だったことから追加コストも発生しなかった。リスク計算の精度がかなりよくなったことを受け、さらに、マーケット情報、オンラインデータ、クレジットカード情報など89種類のデータソースを追加した。これにより、売上に占める引当金を最適化し、収益を改善できた」

バークレイ銀行の事例

 コムキャストでは、約4000万人の顧客に対して様々な新サービスを提供している。このサービスを顧客に推奨するための分析にデータ仮想化を応用した。複数の会社を買収して成立した巨大企業であるため、個々のサービスはサイロ化された運用になっており、顧客のデータが複数のシステムに分散されていたが、データ仮想化によって、これらを統合化して、顧客をより理解し、一人あたりの収益性を向上させることを目指した。

 データソースとしては、顧客の課金情報やコールセンターへの問い合わせ履歴、質問項目、トラブルの内容、ECサイトでのクリックストリームデータ、コンテンツの購入履歴、CMのスキップデータ、試聴データなど。このほか、サードパーティが行った顧客調査のデータや人口動態データなど、あわせるとデータソースは20以上になったという。

 「コムキャストの場合、データソースは、クラウド上と社内オンプレミスであったり、形式もさまざま異なっていた。そこで、これらを仮想化レイヤですべて統合してマーケットデータを扱う論理的なDWHを構築した。構築はわずか3ヵ月で完了し、このDWHを使ってOne to Oneのマーケティグを展開したところ、新サービスの採用率が5~6倍向上した。最終的に売上高を2100万ドル押し上げる効果が得られた。このプロジェクトの初年のROIは10倍に達した」

コムキャスト社の事例

 セッションの最後に紹介した石油会社のケースは、油井から送られてくる、圧力や温度、流量などのテレメトリデータから故障などを予測し、部材調達を最適化している取り組みだ。もともと、個々の油井のテレメトリデータをサンプリングしそれぞれで予測を立てていたが、精度がよくなかった。

 そこで、油井それぞれのデータをデータ仮想化レイヤで統合し、統一的なデータとして分析を行うことにした。さらに、財務データやサプライヤーのデータなど、45以上のデータソースを統合。サプライチェーン全体で最適化を図っていった。

 「従来の手法とくらべて50%のコスト削減になり、年間では200万ドルのコストセーブを実現した。また、シングルソース化したことで、マネジメントから新しい質問が出たときなどは、3倍速く回答できるようになった」

 Breissinger氏は最後に、データ仮想化の利点として、データに直接アクセスできるため経営へのインパクトが大きいこと、常に最新のデータを使うことができるためビジネスに俊敏性が得られること、既存資産をそのまま利用でき、不要なデータマートとそれを実現する大量のハードウェアを削減できるためコスト削減につながることを説明。IoE時代に適したデータ分析基盤構築のアプローチであることを強調した。

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https://enterprisezine.jp/article/detail/6051 2014/08/07 13:31

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