教育現場の課題は、学校での初歩的な教育と実社会との乖離
授業プログラムは、「選挙の結果予測や勝因分析」を題材に、統計学やデータ分析が利用されるシーンや基本的な考え方を学ぶことができるもの。義務教育の範囲を超える内容でもあるため、中学生の共感と理解を得やすくするために、設定を「西暦2200年の巨大な学園の新聞部の生徒」とし、新聞部長から与えられる選挙予測報道に関するミッションに立ち向かわせるストーリーにした。
プログラム開発に携わった企業教育研究会 理事長で千葉大学教育学部教授の藤川大祐氏は「教育の現場では、タブレットの導入などのように、教育方法を変えようという動きが進んでいる。だが、方法だけ変えても意味がない。特にビッグデータなどの新しい分野については、教育内容を変える、新しい取り組みをする必要がある」と、今回の授業プログラム開発の狙いを語った。
藤川氏によると、教育現場の課題の1つが、学校で行っている初歩的な教育と、実社会との乖離だという。統計については、いわゆる"ゆとり教育"後の新指導要領で「資料の活用」が新設され、統計的、確率的な見方や考え方を学ぶことになった。だが、そこでの学習内容は初歩的であり、実社会でどのようにデータ分析が用いられているのかや、データサイエンティストのような新しい職業が求められていることまでは関心が向きにくいという。
そこで、学生にも馴染みがあり、実際に統計学やデータ分析が使われている選挙報道を題材にし、キャリア教育のために、実際にデータ分析の仕事をしている人をゲストスピーカーとして招く構成にした。また、データの規模は、中学生が限られた時間でデータの全体を把握できるように「数万件」程度にとどめ、教材のストーリーには、アニメやゲームの要素を取り入れた。
プログラムの設定では、この学園は7〜12年生の約3万5000人が通う中高一貫校で、3人の立候補者が、生徒会長の席をめぐって数カ月間の選挙戦に挑む。新聞部のミッション(演習問題)は、この選挙戦で、(1) 支持者数のグラフと過去のグラフを比較して、共通点を見つけだし、結果を予測する、(2) 支持者の内訳から、候補者の支持者の傾向をつかみ、結果を予測する、(3) 投票者が決まっていない人へのアンケート結果と、過去の選挙データから、総得票を予測する、という3つの報道を行うことだ。
授業時間は50分。これら3つのミッションを通して、過去のデータの見方、データを階層に分けて理解すること、予測の計算方法をそれぞれ学ぶことができるようになっている。選挙序盤は2名の候補者が競い合うものの、選挙終盤で現行制度の矛盾を暴露する演説で3人めの候補者が支持を集めて三つ巴の接戦に突入するなど、シナリオにも凝っている。