島澤さんが手がけた製品のテクノロジーがわかる!
DB OnlineDay2015開催!―ニッポンを強くする!データ活用の未来
日時:2015年3月13日(金)13:00-18:10
場所:ベルサール神保町
参加費:無料(事前登録制)
→お申込みはこちらから
炎上案件の洗礼を受け、やがて「なんでもやるエンジニア」へ
卒業研究は遺伝子の解析。大腸菌の遺伝子情報を紙に印刷した「電話帳くらいの厚さのもの」を渡され、中から特定の遺伝子配列を探すものだった。紙ではとてもやっていられない。そこで、自分でロジックを組みプログラムを作って解析することに。出来上がった遺伝子操作プログラムは、じつに上手く動いた。それを学内で発表すると高い評価も得る。結果的に大学は、それで特許を取得した。
「大学からの特許報酬が500円で、出願のために必要書類を揃え速達で送るのに郵送料が390円かかりました。差し引きすると缶コーヒーも買えません(笑)」
とはいえ、自分が作ったプログラムが高く評価されたという経験は、島澤さんにコンピューターへの可能性を感じさせるものだった。「コンピュータって世界を変える力があるなあ」―そう実感した島澤さんが就職先に選んだのはITの世界、請負型のSI会社だった。
入社早々にアサインされた仕事は、いわゆる「炎上案件」。顧客先の工場の一角である意味"軟禁状態"に。システムが完成するまでは帰れなかった。そんな中、なんとか案件をこなせたのは島澤さんの実力だろう。とはいえ「今にして思えば、よく逃げ出さずにやったなぁ」と島澤さん。この会社では設計からプログラミング、テスト、さらには仕様書作り、顧客への説明資料作りと何でもやった。最初に最悪な案件から入ったので、短い期間で何でもこなせるエンジニアへと成長する。
2年ほど経過し、実力をさらに試したいと思うようになる。そんな頃、ある会社から誘いを受けた。そこはかなりの実力主義の会社。自分の関わる案件の売り上げが給与に連動するのだ。つまり開発し儲かれば給与は上がる。大変そうだけれど面白そう、自分の市場価値を確かめるためにも、と転職を決意する。
「お金を稼ぐ人とそうでない人では、給与は5倍くらいの差がありました」。
島澤さんはここでも実力を発揮し、トップクラスの「稼ぐ人」になる。開発内容は多岐にわたった。バーコードリーダーのようなハードウェアを活用するものもあれば、Webアプリケーションで会議室予約も作った。受託案件だけでなく、自分たちで企画して製造業向けパッケージアプリケーションを開発、その販売プロジェクトも手がけた。
パッケージビジネスは最初は順調だった。しかし、リーマンショックのあおりを受け、営業担当の削減など厳しい状況に。そこからは開発だけでなく営業やマーケティング的な業務も含め、「さらに何でもやるエンジニア」になる。
「イベントに出展すれば展示ブースを設営して説明員をやり、終わったら撤収するまでやりました。もちろん営業にも行くのですが、本職ではないのでどうしても商売的には上手くいかない面もありました」。この時に感じたのは、組織の大切さ。開発する人がいて、それを伝え売る人がいる。組織が上手く機能するとビジネスも上手く回るようになる。
人との出会いが人生を変える
苦労しながらも先端技術の研究開発を行っており、パッケージの仕事と稼ぐための請負仕事でがんばった。しかし、このまま長く続けるのは難しい。すぐに転職する気はなかったが、転職サイトに登録し情報収集を始めた。いくつかの企業を紹介され、そのうちの1つがフォー・クルーという開発会社だった。ここは当時の1stホールディングス・グループの1企業で先端技術の開発を行っており、現在のウイングアーク1stにつながる。
会社との出会いというよりは、当時のフォー・クルー社長で現在はウイングアーク1stのCTOを務める田中 潤氏に出会ったのが転職を決意する理由だった。
「フォー・クルーを訪れるとすべてモノトーンで統一されたオフィスでした。かなりモダンなイメージで、開発会社でこんなオフィスを作るなんてセンスがいいなと思いました。さらに田中さんと話をしたら、これが非常に波長が合ったんです」
面接では田中さんは当時フォー・クルーで開発していた製品の、島澤さんはこれまでに開発してきたシステムの話をそれぞれした。互いにプレゼン大会のようになり、面接が終わると4時間あまりの時間が経過していたとか。
「田中さんのような人とワイワイガヤガヤやりながら、世の中に対しエッジの効いた製品を出すのも面白いなと考えました」
当時のフォー・クルーでは、BI・データ活用ソリューションである「Dr.Sum EA」のチャート機能「MotionChart」のVer.2を作っていた。この機能はアドビのFlashベースで開発されており、処理が遅いという課題があった。
MotionChartはもっと速くできる。そこで入社2日目、入社研修中だったが改良したエンジンのプロトタイプを作ってみた。それが当時の100倍くらいの速度を発揮。田中社長に報告しその日は帰宅した。翌日出社してみると、なんだか騒がしい。じつはその時点でVer.2出荷開始の2週間前。にもかかわらず田中社長がこれまでの開発を全部止め、島澤さんが作ったエンジンですべての機能を作り直すと言い出したのだ。
すごい判断をする会社だ…と思っていたところ、田中社長に呼ばれる。「コアエンジンを開発し直して、1ヶ月で機能を全部書き直してね」という業務命令を言い渡された。そこからは入社研修などそっちのけ。とにかく、1ヶ月ですべてを作り替えることになった。
「あの時は、本当にこんな進め方でいいのかなとも思いました。結果的には今でもその時に作ったエンジンがベースとなっており、製品は売れ続けています。なので、あの判断は間違いではなかったんだな、と」(島澤さん)
BIツールは使ってもらってこそ
その後も島澤さんはMotionChartに携わり、これに並行して新たなBI・ダッシュボード製品となる、「MotionBoard」の開発にも関わる。現在は会社の統合なども経て、ウイングアーク1st 開発本部 BI開発統括部 統括部長という役職につき、Dr.Sum EAとMotionBoardという2つのBI関連ブランドの製品開発責任者を務める。「2つの製品に価値を持たせ、約束どおりに世の中に提供するのが私のミッションです」と島澤さんは言う。
本年2月に発売となったDr.Sum EAのバージョンは4.1で、4.0からはマイナーバージョンアップになるが、実はメジャーバージョンアップ並みの進化がある。
「BI製品は、お客様に使ってもらってこそです。お客様にメリットがないものを作ってもしょうがない。そのために今回は徹底的に使い勝手の向上に努めました。ビッグデータの活用が拡がる中、それを分析するために専門の知識を兼ね備えたデータサイエンティストという職業が注目を浴びるという流れがありましたが、いまや、データ分析は一部の専門家だけでなく、エンドユーザーが自らデータを使いこなす時代です。とはいえ、データをインポートするのにSQLを求めるのでは、初心者お断りになってしまいます。4.1ではマウス操作だけで必要なデータを、エンドユーザー自身の手で取り込めるようにしました」
もう1つこだわったのがスピード。ウイングアーク1stには、品質保証の規定で前バージョンより速度が遅い機能があると出荷できないという決まりがある。今回のバージョンアップで島澤さんは「倍速」という目標を立てた。これは、マネージメントとして開発現場と会話し、いけるという反応を得たからこそ掲げたもの。結果的にはほとんどの機能で2倍以上の速度を達成し、速くなるものは10倍以上の性能向上を達成した。
「Dr.Sum EAは、もともと他のリレーショナルデータベースなどに比べると高速という評価をもらっています。しかし、ビッグデータという言葉が出てきてユーザーの扱うデータも数千万件から数億件の規模に拡大しています。数千万件でも数秒で返せる、数億件になっても同じように返す。それには、これぐらいの性能向上は当たり前でした」(島澤さん)
ユーザーはデータ数が増えても今までと同じレスポンスを求める。それがユーザーの期待に応えることであり、そのレスポンスの速さがあればこそできることが分析の際にユーザーの思考を中断しない「使えるBI」になる。
徹底的に顧客に寄り添った形での拡張
もう1つの製品MotionBoardは「今は自分のイメージの50%くらいを実現したところです」と島澤さん。BIツールの基本機能はMotionBoardではすでに網羅した。その上で目指すのが、MotionBoardだけで「お客様の業務にイノベーションを起こすこと」だと言う。単に情報を自由に見られるだけでなく情報の入力も行えそこから新たなアクションにも結びつけられるもの、BIから入ってSFAやCRMなど顧客の業務そのものを支援するシステムの実現を、目指しているのだ。
そのためMotionBoardは、徹底して顧客に寄り添った形で拡張を続けている。たとえばExcelの情報を取り込む場合にも、ETLツールのようなものを用意したり追加の作業を必要としたりするのではなく、ユーザーが日常的に利用しているExcelデータをそのまま取り込めるよう、機能を作り込んでいる。この発想はDr.Sum EAでも同様だ。
「5月に提供予定の最新版Ver.5.5では、海外など各地に散らばっているExcelファイルも、それぞれが更新したタイミングで自動的にMotionBoardに集約される機能が追加されます。さらに新しい連携機能によって、遠隔地の情報を自動的にMotionBoardに集めてくることもできます」(島澤さん)
表示が美しく、インターフェイスが使いやすいのは今や当たり前。その上で、現場の業務をリアルに使いやすいものにできるか。それにはユーザーの作業の本質に迫って開発しなければならない。日本でそれができるのがウイングアーク1stの強みでもあり、実際に島澤さんはかなり頻繁に顧客やパートナーのもとに赴き、現場のリアルなフィードバックを受けることに時間を割いている。
3000年かかる処理を1月で終わらせる
MotionBoardでもう1つ力を入れているのが、地図の活用だ。「Ver.5.0から地図機能を搭載しています。Ver.5.5で搭載するリアルタイムGEOコーディングは他社にはないものです」と島澤さん。MotionBoardは、地図機能の実装は遅いほうだ。理由は、地図情報を取り込むにはお金がかかるから。「地図機能の多くはオプションなどで、場合によってはその値段が本体より高いこともあります」と島澤さん。さらに地図情報は印刷などさまざまな利用制限があるものも多い。なので要望があるのは知っていたが、なかなか実装できていなかったのだ。
しかし他の会社から地図情報を提供してもらい、それを取り込んだ地図機能のプロトタイプは構築してあった。ある日それを営業担当に見せると、これは是非実装して欲しいという話に。自由に使える地図情報を取り込むのは大変だと思ったが、なければ作れば良いかと島澤さんは考えた。そこで、その営業担当に「焼き肉をおごってくれたら地図の機能を付けるよ」と軽く約束してしまうのだった。
調べてみると、オープンソースの地図データを使って、独自にレンダリングすれば地図が作れることは分かった。すぐにプログラミングしてみたが、処理にはかなり時間がかかった。「最初に作ったプログラムは、1画像をレンダリングするのに5分くらいかかりました」とのこと。使えるレベルの地図データを揃えるには、20億枚の画像が必要。このプログラムで地図データを作ると終了予定が何と3000年後くらいという計算結果に。この時点で地図機能を含む次期バージョン出荷予定日の半年前だった。
「3000年を1ヶ月以内に縮められるのか。とりあえず1台で3000年なら10台で300年になる。まずはマシンを並べ、さらにアルゴリズムの見直しをしました。結果的には、なんとか1ヶ月以内で20億枚の画像レンダリングができる見通しを立てました」(島澤さん)
この方法でユーザーが自由に使える地図情報を製品に取り込むのは、ある意味画期的だった。成功したのは地図の専門家がチームにいなかったからでは、とのこと。「お客様のやりたいことを実現するにはどうしたらいいかを考えた結果です。既存の地図情報を扱う常識にとらわれなかったのが功を奏したのでしょう」と島澤さんは言う。
Ver.5.0で標準機能として自由に使える地図データを搭載し、さらにその地図上に描画する情報の数にほとんど制限がない機能が実現できた。現在の仕様では、地図上に100万ポイントがプロット可能だ。これなら例えば全国10万店あると言われるコンビニエンスストアも、地図を地域に分けることなくすべてプロットできる。
「分割したり絞り込んだりしすぎると、条件を切り替える時に結局はユーザーの思考を分断してしまうのです」(島澤さん)
Ver.5.5で実装するリアルタイムGEOコーディングも他にはない機能だ。名刺情報などには住所情報がある。しかしそれは緯度経度情報(GEOコード)ではないので、そのままでは地図上にプロットできない。住所から緯度経度情報に変換する必要があるがこれには時間がかかる。なので通常はバッチ処理や人手で変換を行い、結果の緯度経度データを格納する中間データベースを構築する。
「WebのAPIなどで変換してくれるものもありますが、それだと1秒間に30~40件くらい。これだと数万件のデータを変換するのに数分から数十分はかかります」(島澤さん)
これではリアルタイム処理はできない。そこでMotionBoardでは変換をほぼリアルタイムに実現できる独自エンジンを開発した。結果的に1秒間に32万件の変換処理が可能となり、数万件の変換も1秒以内に終了する。データが増えれば住所は増える、さらに変更も発生する。その場合にもあらかじめ緯度経度の中間データベースを作ることなく、リアルタイムに変換し情報をリアルタイムに地図にプロットができる。
データを活用して世の中をびっくりさせるようなもの作りをしたい
島澤さんはデータの可視化が趣味だと言う。実際自宅には、複数のモニターや機器が並べられた「趣味の部屋」を作っている。家の中には各種センサーも設置し、この部屋で家の中の電気使用量や温度や湿度の変化など、さまざまな状況が手に取るように分かるようにした。さらに、MotionBoardの遠隔地の情報を可視化する機能を使って、外出先からそれらの様子がリアルタイムに可視化できるようにもなっている。
「私はデータ活用に人生をかけてます。情報を知っているか、さらにはその見方を知っているかで人生が分かれたりします。データを活用することと、その利便性を是非皆さんにも知って欲しい」
ウイングアーク1stは「サプライズ1st(ファースト)」というスローガンを掲げている。「世の中をびっくりさせるもの作りたい」―そんな島澤さんの熱意が「サプライズ1st」の支えとなっているのだろう。
■■■ Profile ■■■
島澤 甲 SHIMAZAWA,Ko
2010年、ウイングアーク1stの前身であるウイングアークテクノロジーズの研究開発子会社、フォー・クルーに入社。
一貫して「MotionBoard」の開発に携わり、その高い表現力や高速処理を実現させた立役者となる。2014年より現職、BIソリューション製品全般の開発を統括している。
島澤さんが手がけた製品のテクノロジーがわかる!
DB OnlineDay2015開催!―ニッポンを強くする!データ活用の未来
日時:2015年3月13日(金)13:00-18:10
場所:ベルサール神保町
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