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そのソフトウェアの不具合は瑕疵か瑕疵でないか

 前回、ソフトウェアの不具合を損害賠償請求の対象となる“瑕疵”と見なすかどうか、その線引きはどこにあるのか、といったお話をしました。仮に不具合があったとしても、遅滞なく補修を行い、業務に使えるようにしていれば、必ずしも“瑕疵” ではなく、ユーザがベンダに対して行う賠償請求も認められない場合がある、と言った内容でした。実は、今回も同じようなお話なのですが、前回よりも、より明確に、このあたりに言及し、且つ前回は触れられていなかった新たなポイントに触れた判決を例示したいと思います。説明の都合上、前回と重複する部分もありますが、ご容赦ください。まずは、事件の概要です。

ソフトウェアの不具合による損害の賠償が争われた裁判の例

 (東京地方裁判所 平成9年2月18日判決より抜粋・要約)

 ある貨物自動車運送業者 (以下 ユーザ) は、自社の運送システム及び関連システムの開発をベンダに依頼したが、納品されたシステムには数多くの不具合があり、業務に支障があった。ユーザはベンダに対して、開発費用等の返却と損害賠償、併せて約2億7千万円を求めて提訴した。

 ※ ( ) 内は、筆者の加筆

 ここで一旦、この運送システムについての補足説明を入れたいと思います。

 このシステムは、ユーザである運送業者が、トラックを運行させて、配達を行った実績から売上高を計算し、売上元帳に記録するシステムです。

 一台のトラックに乗務員が乗り、荷主から依頼された荷物を届ければ、その代金を売上として登録するわけですが、例えば、同じトラックでも途中で乗務員が交代したり、一人の乗務員が同じトラックで2つの定期便を運航したりすることもあり、その分だけ情報システム内のデータの持ち方は複雑になっています。そんなことを頭の隅において、以下の不具合をご覧ください。(もっとも、不具合の中身について理解しなくても、この記事は読めるはずですが。)

 (東京地方裁判所 平成9年2月18日判決より抜粋・要約) <つづき>

 【ユーザが指摘した不具合の抜粋】

  1.  一旦削除した車両データを新規登録できない。(通常、車両データの削除は、車両を売却したり廃車にしたりする際に行うが、それ以外でも業務の都合上行うことがある。)
  2.  車両運行中に乗務員が交代すると、運行データ(売上・給油量)が二重登録される。
  3.  売上明細を荷主別に出力する際、他の荷主のデータが混在する。
  4.  「地区コードテーブル照会」という画面のロールアップが66画面までで、それを超えるデータがあるときに照会できず異常終了する
  5.   数字のみ入力を許す項目に、アルファベットやカナ文字が入力可能で、そのままファイル更新をすると不具合が発生する。

 裁判で争われた不具合は、もっと多かったのですが、とりあえず代表的なものだけを列挙してみました。どれをとっても、システムにはありがちな欠陥ですね。ご自分でシステム開発の経験がある方なら、これらの不具合が修復にそれほど多くの時間を要しないことも想像できるかもしれません。前回、お話ししたように、すぐに補修できるようなものであれば瑕疵とは見なされないとするのが一般的な考え方です。従って、これらの不具合の中でも、「2. 車両運行中に乗務員が交代すると、運行データが二重登録される。」と「3. 売上明細を荷主別に出力する際、他の荷主のデータが混在する。」については、「遅滞なく補修を終えたから、欠陥ではない。」とユーザの請求が退けられています。

次のページ
遅滞なく補修する訳ではない不具合は、瑕疵と見なされるか

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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