loTでできること
このセッションのキーワードは「IoTと現場」。大がかりな仕組みというより、現場のデータを現場で活用していくIoTがテーマである。
まずは、IoT時代のデータ活用について、富士通はどう見ているのか。最近、センサーから数多くのデータが集まってくるようになっている。それはセンサーが安価になってきていることもあるし、技術革新もある。一例は、富士通が行っている光ファイバーを使った温度測定の技術だ。約10センチの精度があり、1キロメートルのファイバーを1本配置すれば、1万個のセンサーを配置したのと同じデータ収集ができる。しかもそのデータは連続で均一であり、時空間の情報が取れる。
従来、データというのは蓄積し、統計学的に過去から分析して見るのが基本だった。それがIoTの時代には、現在を軸にして試行錯誤し、ビジネスを拡大するヒントを得てくることになる。たとえば、大きな小売店の売り場の構造と、人の動き、売上のデータを重ね合わせて現状を空間的に把握し、改善点を探る。
ここでキーとなる技術は、異常検知だ。最近、人が集まり始めたなど、変化を素早く見つけ出すことで、アイデアを見つけていく。そのためには異常検知を含め、SQLの上に、様々なアルゴリズムを乗せていく必要がある。
安永氏は「IoT時代に求められる、数多くの分析手法を取り込んでいくためには、データベースだけでなく、その上位についてもしっかりやっていく必要がある」と語る。そのためのアーキテクチャーは、大きく三つのコンポーネントで構成される。
一つは、センサーなどで集められる温度、人の動線、画像、地図などの多様なデータになる。それをある程度精緻化し、上の層で統合していく。さらにそのデータをインメモリで解析し、たとえば健康志向の客を関連商品に誘導するなどの施策につなげていく。
対象となるデータは、新しい格納構造で管理しようとしている。たとえば、時系列、時空間など様々な軸のインデックスによる抽出データの絞込みや、並列実行や独自の圧縮実行などにより、大量データの効率的な抽出を実現する。
また最近、様々なデータの利活用が注目されているのと同時に、セキュリティが重要視されている。そのために個人名を見えないようにするわけだが、安永氏はそれだけでは不十分だと指摘する。
たとえばデータ分析で、条件を絞り込んでいくと、特定の人の動きが見えてくる場合がある。そのため、情報を共有しても、個人が見えないようにするため、データにノイズを入れるような技術などが求められている。
ユーザー事例と自社事例にみる、データ分析の効果と課題
ここで安永氏は、富士通が提供したサービスによるデータ活用の事例を紹介した。
最初のケースは、流通業において複数の店舗を担当するエリアマネージャーが、店舗間で売上の差が生じる理由を分析するというものだ。ポイントは、ビジュアライゼーションツールなどを用いて、データをビジュアルに、分かりやすく見せていく点にある。従来のBIツールに比べ、近年のビジュアライゼーションツールは、気象データなどと組み合わせ、より直感的に見える化・分析できるようになってきている。
たとえば、売上を一日ごとのレベルで見る。これに加え、気象データを持ってきて、気温や降水量との相関関係を見る。すると、明らかに雨の降った日は売上が落ちていることがわかる。降雨量を10ミリか、15ミリか、試行錯誤しながら見ていくと、雨の日の対策が間違っていると判断できる。そこで、その日、どのような商品が売れていたのかを調べ、それらがより売れた配置をヒヤリングで探る。その結果を各店舗に取り入れ、売上をアップさせることができた事例だ。 このようにデータを取り込み、直感的に分析することが今、やりやすくなっている。しかし、実際に原因を探すのには時間がかかり、容易ではないと安永氏は言う。
それが次のケースの、富士通自身によるデータ活用の事例だ。
富士通では、ミドルウェアの売上を分析している。対象となる要因は、売上、商談規模、業種、OSなどで、このケースではグラフの減少箇所の組合せで約2000ある。たとえば売上がダウンした場合、その原因となる要因の組み合わせは無数にあり、究明のために闇雲にチェックしているようでは、非常に効率が悪い。
そこで富士通のDBソフトウェア垂直統合製品であるFUJITSU Integrated System Analytics Ready を用いて、製品ごとに業種とOSの組合せなど、分析の最小レベルに細分化してアルゴリズムにかけて、どこに異常値があるかを割り出した。この結果をビジュアライゼーションツールに渡して 異常値が生じているセグメントまで、上のカテゴリーから直進でドリルダウンできるようにしている。この製品はオープンデータベースであるPostgreSQLに搭載されているSQLインターフェースとの高い互換性を実現している。安永氏は「PostgreSQLは単に、インターフェースとして上位のアプリケーションと繋がることだけではなく、たとえば足回りもHadoopと繋がっていく。さらにアプリ開発者やSIerとの繋がりにもなってくる。特に今後、ビッグデータ、IoTの時代に、PostgreSQLが花開いてくるのではないか」と語った。
次の事例も流通業で、手動発注を自動発注に変えようという例だ。自動発注の精度を上げていくことにより、欠品率や、在庫保有率が1~2割改善された。
実際の作業ではまず、そのビジネスのモデルを分解した。通常の売上、キャンペーン、特売などを分けて、データが混乱しないようにするのがポイントだ。発注は手持ちのデバイスで行っており、主力商品は手動で良いのだが、その他の多品目のところは自動的に計算していきたいというのが要望だ。そこで過去の売上と季節要因などを分析し、自動発注に必要なデータを計算する。
ただ実際にやってみると、思ったより予想と違ったという。食品だとブームで売れているケースもあり、そうではないこともある。そこで、現在の売上分析をバックで回し、最適なアルゴリズムを探ることで、かなり精度を上げることができた。
様々な要因で商品の売れ方の傾向が変わっていくことが分かった。そのため、精度が落ちてきたらマッピングをし直している。
続く事例は、建物のデータを設計図のデータを照らし合わせて歪みを見るというものだ。ポイントは現場のデータを現場で活用する点で、そこでは技術のオープン性が重要になる。
安永氏は「データ活用は、1社で作りきれる状況ではなく、大学関係や、各種の企業と組むエコシステムが重要」と認識している。顧客の要望は非常に多様化しており、分析アルゴリズムも山のようにある。オープンソースをコアにしながらパートナーシップで、情報利活用を活性化できればいいと考えているという。
PostgreSQLベースの富士通データベース製品
ここで安永氏は、富士通のデータベース製品を紹介した。PostgreSQLをベースにして作っているが、大きく基幹系と情報系のラインナップがある。さらにソフトウェア版とアプライアンス版があり、導入すればすぐに使えるハードウェアもセットされた垂直統合版がある。
FUJITSU Software Symfoware Serverバージョン12は、どちらかといえば基幹系の業務、トランザクション系のDBだ。特徴は、「高信頼」、「高性能」、「安心」にある。
事例のところで紹介したSymfoware Analytics Serverは、様々なデータを格納可能で、インメモリによる高速なRDBの処理ができ、それをフローで統合する形になっている。
この製品と富士通のハードウェアを垂直統合したのがFUJITSU Integrated System Analytics Readyになる。
アプライアンスのFUJITSU Integrated System HA Database Readyは、サーバー、ストレージ、ネットワークとOS、運用管理を垂直統合した製品で、完全な冗長構成になっている。SSDに最適化されており、非常に高性能だ。さらにリカバリーが1ステップというのが一つの特長で、異常が起きたときの対処が簡単で、ユーザー自身でできる。
安永氏は最後に「IoTということで、ネットワークを使い、データ収集をするのですが、それだけでなく、現場のデータを現場で使う。そうすることにより、業務をどんどん効率化し、ワークスタイルの変革を可能にする。そうしたことが我々の目指している所です」と語り、セッションを終了した。