SDSを整理してみよう
「Software Defined(ソフトウェア定義の)」という言葉が初めて世に出たのは2012年のVMware World。当時は「Software-Defined Data Center」だった。いらい、この表現は「~ Network(SDN)」や「~ Storage(SDS)」などと波及している。概して、コモディティ的なハードウェアを用いてシステムを実現できる選択肢が広がること、アプリケーションのニーズに容易かつ柔軟に対応できることなどがメリットとされている。
今ではSDSを実現する製品も多様化している。EMCジャパン シニアシステムズエンジニア 市川基夫氏があらためて整理した。
大きく分けて「データプレーン」に着目したものか、「コントロールプレーン」に着目したストレージアレイ活用型(C)に分かれる。前者はストレージ機能をソフトウェア化してデータサービスを提供するもの(A)と、コモディティサーバーをストレージ化するもの(B)に分類することができる。合計で3通り。
(A)データプレーン:ストレージ機能をソフトウェア化
ストレージアレイのOSを仮想化することで、ハイパーバイザーやクラウド環境でも、ストレージ製品の機能を動作できるようにした製品
EMCの強みはストレージ専用ハードウェア製品。近年ではこれらの機能が徐々にソフトウェアとして提供されている。2013年5月にはvRPA(RecoverPointの機能を提供)、2014年4月にはVPLEX/VE(VPLEX仮想エディション)、そして2015年5月から正式リリースとなったのがvVNXだ。さらに将来的にはvOneFSも計画されているが、まだ先になりそうだ。
新しく提供開始になったvVNXはVNXのソフトウェア版。市川氏は「VNXが持つモジュールを分解し、必要なものを選んだものがvVNX」だという。無償提供でコミュニティエディションという位置づけだ。テストや開発環境での利用が想定されており、商用環境での利用はできない。
基本的にはVNXe(VNXのエントリーモデル)がベース。ユニファイドスタックなので、使用できるストレージプロトコルはCIFS、NFS、iSCSIとなる。OVF(Open Virtualization Format)形式で提供されており、VMware vSphere(ESXi)環境が必要となる。
vVNXでSDSでNASやSANを手軽に構築したり、VMware vCenterでストレージ管理などVNXの機能を手軽に試すことができるのがメリットとなるだろう。
(B):データプレーン:コモディティサーバーをストレージ化
コモディティサーバーにソフトウェアをインストールすることで、サーバーのみでストレージアレイと同様の機能を提供できるようにした製品
このタイプのSDSに近い既存製品を挙げると、例えばVMware Virtual SANやRed Hat Cephがある。そこに新たに加わるEMC製品がScaleIO。5月のEMC Worldで発表された。
端的にいうと、ScaleIOはコモディティサーバーの内蔵ディスクをSANストレージとして使えるようにするソフトウェア。特徴は拡張性で、市川氏は「1000台以上のサーバーにスケールアウト可能。性能はリニアにスケールします」と言う。サーバーの動的な追加や削除が可能となるなど弾力性が高く、耐障害性が高いとも言える。EMC Worldでは500ノードでリードのみでは1億IOPSとなるとの検証結果で高性能をアピールした。
現時点でバージョンは1.32、VMware、Linux、Windows版のScaleIOが無償提供されている。無償提供は利用期間、使用容量、機能において制限は一切ない(強いていえば商用利用は不可)。
市川氏は「とことん納得いくまで検証できます」と話す。なお2015年終盤にはScaleIO 2.0がリリース予定で、エンドツーエンドの整合性メカニズムやEMC RecoverPointとの連携で改良が加えられる予定だ。
(C):コントロールプレーン:ストレージアレイ活用型
ポリシーベースによる管理の自動化が可能。様々な機種のストレージアレイ、ボリュームをプール化するなどの手法で抽象化するすることで一元管理する製品
SDSを実現するソフトウェアのなかでも制御側にあたるものにEMC ViPR Controllerがある。メーカーやストレージが異種混合した環境でストレージリソースを一元管理できる。ストレージをカタログ化して分かりやすく分類するだけではなく、ストレージとネットワークスイッチなど仮想化環境のための作業も一気通貫して行えるのが特徴だ。
これまでもViPR ControllerはVMware、OpenStackなどクラウドとのインテグレーションをサポートしていたり、ViPR Controllerにネイティブに対応している他社ベンダーの製品などサポート範囲の幅広さはあった。しかし今後はさらに拡張が見込めそうだ。なぜならEMC WorldではViPR Controllerのオープンソース版にあたり「プロジェクト CoprHD」が発表されたからだ。今ではGitHubでソースコードが公開されている。
先述したvVNXやScaleIOと異なり、ViPRをコードまでオープンにする理由について市川氏は「ViPR Controllerはコントローラーなので対応OSやハードウェアが広がると価値が高まるため」と話している。EMCだけではなく多くがエコシステムに参加できるようにオープンソース化に踏み切ったということだ。
Software-Definedの製品にもシフト
EMCが実現するSDSがもたらすものは3つある。vVNXやvRPAなどソフトウェアで既存製品の機能を提供することにより、柔軟な選択肢が提供されるようになる。またScaleIOにより、変化の激しい要求に迅速かつ容易に対応できるようになる。さらにViPRにより、クラウド基盤を迅速に導入したり運用管理が簡素化される。今後ViPRはオープンソース版「CoprHD」としてオープンソースでも提供され、よりエコシステムが広がることが期待できる。
さらにSDSに俊敏性が加わったものに「コンバージドインフラストラクチャ」がある。これまでもEMCではVSPEX BLUEなどが提供されていたが、EMC Worldでは新しくラック単位でスケールするVxRACKが発表された。
初期リリースではVxRACK 1032モデル(1000シリーズ)が提供され、最小は1/4ラックから、最大1000ノードまで拡張可能。ストレージ部分はScaleIOをベースとし、コンピュート部分はvSphere、KVM、ベアメタルなどが選択可能だ。
来年を予定している次期リリースではVMwareのEVO:RACK技術をベースとしたものでストレージ部分はVSAN、コンピュート部分はvSphereに対応したものも発表される見込み。
EMC Worldではコンバージドインフラを実現する新しい構想となる「Project Caspian」も発表された。昨年EMCが買収したCloudscaling社の「Open Cloud System(OCS)」をベースとしている。オープンソースで提供され、コモディティサーバーで実現するコンバージドインフラとなる。OpenStackとEMC製品の橋渡しとなることや、第3のプラットフォームへの移行を目指すためのソフトウェアスタックになると見込まれている。
まとめとして市川氏は「EMCはSoftware-Definedの製品にもシフトしてきています。メリットは第2と第3のプラットフォームの共存や第2から第3のプラットフォームへの移行を強力に支援できることです」と締めくくった。