IT開発というのは面倒なもので、一旦、要件を凍結した後でも、五月雨式にその追加・変更が発生します。五月雨式に次々と湧いてくるわけですから、一つ一つ、契約の見直しや金額の合意をしていたのでは仕事になりません。ですからユーザーもベンダーも、やることが決まっている作業であれば、正式な見積もりや契約変更は後回しにしてとにかく作業を先行させようということになります。
こういう場合、ユーザーとベンダーが作業内容や工数について、正しい理解を共有しているのであれば問題は起きません。しかし、双方の理解に齟齬があれば、両者は対立することになります。
「この機能、入れるって話だよね?」
「いえ、それは、まだ決まっていません。」
「こちらが、今回の追加作業についての、お見積りになります。」
「ええ?金払うの?」
ITの世界では、こんな会話もめずらしくありません。このように、追加要件と費用について合意のないまま作業を行った場合、その責任はどちらにあるのでしょうか。今回は、そんな事件のご紹介です。
まずは、判例からご覧ください。
合意していない作業をベンダーが行ったについて争われた事例
【東京地方裁判所 平成15年5月8日 判決より抜粋して要約】
あるソフトウェア開発業者(以下 ベンダー) が通信販売業者 (以下 ユーザー) から販売管理システム等の開発を一括請負 6500万円で受託し開発を開始した。開発はシステムをいくつかに分けて、順次、開発し納品する形で進められたが、開発中にユーザーから多項目にわたる修正・改善要求が出された。
ベンダーは,ユーザーとの会話の内容から、これらの要求については、対応せざるを得ないと考え、追加費用等の合意を得ないまま、作業を行い完遂した。ベンダーは、作業後に、追加費用3150万円を請求する見積書を提出したが、ユーザーは、金額に合意していないことを理由にこれを支払わず、ベンダーは支払いを求めて訴えを起こした。