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ITは本当に世の中の役に立っているのか?そもそもITなんていらないのではないか?……といった本質的な問いを胸に秘めながらも、第一線で活躍する二人のIT屋が、バズワードについて、Slerの幸せについて、データベースについて、クラウドについて、エンジニアのキャリアパスについておおいに反省したりしなかったり……エンタープライズITの現場の実情が立ち上る生々しい対話です。
Webでは読めない、神林飛志さん、井上誠一郎さんによる渾身のオリジナルまえがき、あとがき付き!
ぜひご反省ください!
SIerは人が多すぎるうえに、なぜあんなに働くのか。
井上:SIはなんでハッピーじゃないんですかね。
神林:えっと、まずは、人多すぎですよね。もうちょっと少ない人数でできるところに無理やり人を入れてしまって、いや、いろいろな問題があるんですけど、一番大きいのはやっぱりお互いに知識が不足している。
井上:そうですよね。なんであんなに働くんですかね。
神林:たくさん人を働かせたほうが売り上げが上がるからですよね。結局、ユーザーさんが評価ができないんですよね。システムの価値を。中身がわからないので、どういう評価をするかっていうと、どれだけ人を突っ込んだかっていうほうが、人月工数の原価が高い、要は価値があるように見える。人がたくさんいて作ったもののほうが、人が少ないよりもいいものに決まっているっていう発想が抜けてない。抜けていないっていうか、それしか判断する根拠がない。
井上:それで、人数が多いのは説明できるとして、残業とか休日とかまで来るのってそれで説明可能ですかね。
神林:残業、休日まで来るのっていうのは、説明が可能か…残業休日までやんなきゃいけない羽目になっている……
井上:それはなんとなく、正しいかどうかは別として、説明する要因としては、顧客側が過剰品質を求めているところもあるかなと。
神林:あの、やっぱり過剰品質を求めているというよりは、何が本来品質として必要なのかというところがわかっていないと思うんですよ。だから、とりあえず、「とりあえず」っていう言い方に絶対なるんですけど、こいつとこいつとこいつは今まであったので、今度も作ってほしい、と。いるかどうかについては、俺はよくわからないし、もしかしたらいらないかもしれないけど、でも今までやっているから、これもつけといてねっていうのが多いんですよね。
井上:そこは結構、SIやっている人間が過剰労働になる本質かと思うんですが、それってどうやったら止められるんですかね。
神林:やっぱりユーザーさんのほうで「それはいらない」って明確に言えるということがひとつと、あと、いらないことを切ったからって値段……一番怖いのは値段交渉になるのが一番怖いんですよ。要は要らないものを切ったと。だから、金額に影響しますよね、みたいな話になるとまためんどくさい話になる。そもそも、予算の見積もりが甘いですよね。お互い甘いですよ。それで、機能を切った削ったって話をやり始めて、もともとこれ必要だったからって話になったときに、そこの交渉のところをあんまりうまくできていない気がします。機能が減ったり、ドキュメントが減ったら、コストは当然下がるべきだっていう風にユーザーのバックエンドの人だったり、ユーザーの人は思っちゃったりするじゃないですか。
井上:発注側ですよね。
神林:で、受け側からすると、それはそういう話じゃない、ですよね。
井上:受け側はうれしくないですよね。
神林:だから、これはいらないですよねって削って、お金が減るよりは、やっちゃって、そのまんま全部金額をもらったほうがうれしい、と。マネジメント層が考え出したりすると、もう、ロクな話にならない。やだなって。これを削ったほうが効率がいいしって思うんだけど、それだと値段の交渉になるし、こっちからは言い出せない。
井上:でもそれって、ITだけなんですかね。結局発注側って、お金出す側って同じ金額出しているんだったら、あるだけ働かせたほうが楽っていうところがあるじゃないですか。そのメンタリティがある限りは、あらゆる産業で起きそうな気がしますけど。
神林:たぶんITがそういうのが一番強いと思います。なぜかというと、中身がわからないから。中身がわかるようなやつについては、品質でユーザーがチェックできるのでそういう話にはならない。たとえば家を作りますよっていったときに、たくさん大工を入れたほうがいいものができるって思わないでしょ。いや、入れたほうがいいって思う人もいるかもしれないけど、そんなことよりできあがったものがしっかりしていて品質がよければみんな満足じゃないですか。それくらいの常識はみんな持ってますよ。それを、たくさん大工を入れたから金くださいって言ったら、「お前、ちょっと待て」って話になるし、そのベースになっているのは、少なくとも家に住んでいて、それがどういう家で、どういう住み心地かっていうのが自分でわかっている前提がある。
井上:まあ、わかっていないこともあるかもしれないですけどね。
編集部:杭が入っていなかったり……。しかし、クローゼット6個もいらん、とかそういうのは少なくとも家だとわかりますよね。6個作りましょう、6個!って言われたら、いや、3つでいいです、みたいな。でもITだと6個作りましょうって言われたら6個必要なのかなって思ってしまいそうな気はします。
井上:でもメンタリティ的に言うと、家を買ったときに同じ金額は払っています、と。で、大工さんとかがだらけて1日1時間で手抜き工事して帰っていたら嫌ですよね。そういう意味でいうと、ちゃんと働いてほしい、最大限働いてほしいというメンタリティは少なからずあるはずですでよね。
神林:最大限っていうのをどこに指すかっていう問題だと思うんですよ。ちゃんと仕事してもらえればいいっていう話だと思うんですよね。ちゃんと仕事をしてもらった結果として、ちゃんとしたものができているっていう。ちゃんと仕事をするっていうことは、ちゃんとしたものができているっていうのが前提にあって、そのために適正な対価を払うっていうのが普通の考え方なんですけど、それが評価できないっていうのが、最大の……
井上:たとえば、家のたとえはわかりやすくて、家も本当は大工さんがちゃんと仕事をしていたかどうかは実はわかってないですよね。
神林:最近問題になっていますよね。
井上:そうするとITがいい加減に始まったせいなのか、単なる歴史の問題なのかもしれないですよね。
神林:歴史の問題もあるけど、やっぱり、実はその家に住んでいないユーザーが多いんじゃないかと思っていて。
井上:あー。使ってないから。