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「強い」は脆い?―「弱さ」が生みだすレジリエンスとセキュリティ ― ロボット研究者、岡田美智男さんと

協力を引き出す何か

丸山 こうして考えてみると、ロボットやシステムというのは、そもそも全部弱いところがあって、完結していない。要は、自己完結していないという意味において弱いということにあらためて気づかされますね。ゴミ箱ロボットは極端な例というか、そのことに気づかせてくれる。

岡田 僕はけっこうルンバの話が好きで。

丸山 お掃除ロボットですね。ゴミ箱ロボットよりは働きますよね。

岡田 そう、ルンバって、ひとりで勝手にお掃除をしてくれると僕らは想定して家に置きますよね。ところがルンバって、部屋の隅にあるコードに引っかかってギブアップしたり、段差に弱かったりするじゃないですか。

丸山 はい。袋小路になったところに入っていって出られなくなっちゃったり(笑)。

岡田 そういう要素がだんだんわかってくると、僕らはスイッチを入れる前に最初にコードを直してあげるとか、椅子を並べてあげるようになっていて、結果として部屋はとてもきれいになってしまう。

丸山 ルンバと人間のコラボレーションによって部屋がきれいになっている。

岡田 それは誰が片付けたかというと、僕ひとりでもないし、ルンバがひとりでやってくれたわけでもなくて、ルンバというのは、僕らを味方につけながら一緒になって部屋をきれいにしてしまう。そういう人とロボットの関係性もある。これを「弱いロボット」と僕らは呼んでいるんですね。

 いままで機械として捉えたときに、その弱さというのは単なる欠点だったり、潰すべきものだったわけですけども、ロボットとして、かわいらしく動いた途端にですね、その弱さが僕らの手助けを引き出すための非常に大事な要因になっているのが面白いなと。これまでの家電の考え方とは全然方向性が違うと感じたんですね。そのような機械の弱さというか、ロボットの弱さが周りの手助けを引き出しているというのは、なかなか面白いということで、弱いロボットの研究をいろいろ始めています。

丸山 ロボットができないところを「ごめんね。できないけど許して」みたいな感じで、相手の協力を得るコミュニケーションを「かわいさ」という感覚を通じてやっているのかもしれないけど、引き出す何か、そういうことをやっているんですね。

岡田 そうですね。

丸山 「協力を引き出す」というところが面白いですね。ゴミ箱ロボットがヨタヨタしていて、子どもが興味を持って、何かやったらお辞儀をしてくれて、そういうコミュニケーションのなかで「手伝おうか」という気にさせている。それは、ゴミ箱が単にクルクル回っているだけだったら、「ふーん」で終わってしまうと思う。そこを何か考えないといけないですよね。協力を引き出すための何か。

 これ、コンピューターシステムに置き換えて考えてみても面白いと思います。自分のできないところをうまくちゃんと伝えて、「これできないんだけどなんとか協力して」みたいなことを引き出すようなシステム。もともとシステムって全部完璧じゃないですからね。会社で使っていてもシステムができないと、普通は腹が立ちますよね。「反応遅いな」とか「肝心なデータが取り出せない」とか。それは、できて当然と思っているから。そこは、何か違う要素があれば「しゃぁないな。オレがなんとかしたるわ」と、そういう、できないところをうまく「そこは人間がするからいいよ」というふうに持っていくインセンティブが働くような仕組みにしないといけないですね。

岡田 バグですよね。

丸山 バグです。本来は機能としてあるべきものがない。ゴミ箱ロボットと似ていますね(笑)。ゴミ箱ロボットとしても、本当は拾ってきてゴミを捨てるなり、掃いていくとか、そういうのがロボットとしての機能として必要なんだろうと多くの人が思うども、できない。「僕できないからそこ助けて」「じゃぁ、しゃぁないな」というその「しゃぁないな」を引き出す何かがあることが重要ですね。自分のできないところを助けてもらう。最終的には何か目標を達成するために本当は全部揃ってないといけないんだけど、もう諦めて、他人に助けてもらう前提で考える。

岡田 けっこうそういうロボットを作ってきました。もどかしいロボットとかですね、あと、このフラフラというのは、おぼつかないとか、おしゃべりするときもたどたどしいとか、そういうものをいろいろ利用して人の手助けとか、人のやさしさとか、人の工夫を引き出してそこで少し価値あることを実現しようと。

丸山 相手の協力を引き出すときのポイントって何なんですか?

岡田 やはり身体ですね。その対象も自分と同じような身体を持っているということがけっこう重要な要素です。思わず、自分の身体を相手に重ねて考えようとする。共感を引き出すようなことをですね。そのときに、目の前のものが機械であると共感を引き出せないわけですよね。だから、自分と同じような身体を持っていることが重要で、それは必ずしも形が同じという意味ではなくて、環境との関わり方とか、関わりの様式が似たものに対して僕らは思わず自分を重ねてしまうことがある。

丸山 自分に近い何かがあるとそこで共感しやすくなりますね。しかも、身体と言っても形が同じという意味ではないということは、いわゆるヒューマノイドである必要はないということですか?

岡田 ロボットの人らしさということにアプローチするには二つの方法があって、ひとつは、やっぱり、目の前に実体として手本があるんだから、その実体に近づけていけば人らしくなるのではないかという発想がアンドロイドとかジェミノイドといったものがあるわけですが、僕らは実体に近づけなくても周囲との切り結びの様式が同じならば、人らしさを作り出せるのではないかという発想なんですね。それは、実体としての同形性に対して、関係としての同形性と言っているのですが、同じ「人らしさ」もですね、周囲との関わり方、関わる様式がとても近ければ、人のように感じることができるのではないかと。

丸山 面白いですね。そういう、弱さというか、引き出す力というのがあるということが重要なんですね。そして、引き出す力は、自分の身体、身体的なものと共感できる何かがあったらそこでできると。

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 「する人」「される人」という線引きが作る脆さ

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Security Online編集部(セキュリティ オンライン ヘンシュウブ)

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