インターネットはそもそも穴だらけだった
岡田 量販店に行くと毎年毎年新しい冷蔵庫とか電子レンジとかが出てきて、少しずつ機能が追加されているんですね。それで、まぁ、同じ値段だったら機能の追加されたものをユーザーは買ってしまうから、技術者も毎年少しずつ加えないといけない。それの繰り返しをしていると、そういうのを「なし崩しの機能追加主義」と言うのですが、「もっと、もっと」いう要求のなかで日本のものづくり企業がどんどん疲弊してしまう。ということになるんですね。そういうものも限界。いろいろな機能をつけてももう限界で、値段も下がらないと、他のところに負けてしまうのですが、だったら引き算でいいじゃないかという話になるんですね。たぶんセキュリティシステムも、「セキュリティ、セキュリティ」ってどんどん追加、追加、追加しても限界があって、だったらものごとの考え方を変えましょうという話ですよね。
丸山 それは確かにそう。なんて言ったらいいかな。最近っていろいろなセキュリティ製品がバーっと出てきたりするので「これ、使ったほうがいいですか?」って、それは状況によるからね。これを使ったらよいかどうかは環境による。どういう攻撃を受けているかとか、いろいろな刻みのシステムで、どういうふうに守られているかによって、「これを入れるのもダブりだし」とか、「これいま全然守られてないから入れたほうがいい」とか、「そんな攻撃受けてないから関係ないよ」かもしれないですよね。でもわからない。複雑すぎて。だから、やっぱりもう少し本質的に何が重要かって、もっとシンプルに考えるようになることからやっていかないといけないと思いますね。
岡田 インターネットはもともとね、軍事的に、単一のシステムが壊されるとどうにもならないので、並立化、分散化しようということで作ったんだけど、それがいまは穴だらけになってしまっているらしいので。
丸山 いや、あれはもともと「通信が途切れないようにしましょう」でつくったから、その設計思想ですよね。ネットワークって。
岡田 どこからでも入り込めてしまうという……。
丸山 だからどこからでも入り込めちゃうんですよね。逆に言うと。でないとシステムが途切れないといけないということになる。だから、そういう設計思想のもののなかで情報が漏れないようにしましょうというものをやろうとするから無理なんです。
岡田 無理なんですよね。
丸山 無理なんです。
岡田 ずっと穴が開いてるから。
丸山 だから、元々が無理なんです。無理なことやろうとするからすごいコストがかかる。設計思想が違うものの中に載せようとするから間違いなんですね。
岡田 だから、弱さがきちんとわかっていれば、重要なファイルをそこに置くというふうにはならないんですね。
丸山 そうそうそう。
岡田 「なんであんな大事なものをサーバーに置いちゃうかなぁ」と思うんですけど、置いちゃうんですね。
丸山 だから、そこをわかってない。それは、全部そうです。設計思想が違う、っていうのがありますね。もともとあれは軍事用で、経路を指定してやるから、その経路を止められるともう通信できない。インターネットは「いろんな経路でつなげられるから、ここがダメだったらこういうふうに経路を変えればつながるよね、ということで通信が確実にできます」という発想だから、「秘密を守ります」という発想はまずない。そこには。最初から。秘密は情報を暗号化して流せば取られないから、「暗号化した情報しか流しません」とやったら問題なかったかもしれないですが、普通に流すもんだからどうしようもないですよね、そもそも。そういうことです。
いや、おもしろかった。今日のお話はセキュリティだけではありませんね。社会問題。社会の全部の構造ですね。岡田先生、ぜひ頑張ってこれからも情報発信していってください。
岡田 ありがとうございます。ゆっくりとですが書いています。がんばります。
丸山 今日はどうもありがとうございました。
岡田美智男(おかだ みちお)
1987年、NTT基礎研究所 情報科学研究部入社。1995年、国際電気通信基礎技術研究所(ATR) 主任研究員。1998年-2005年:京都大学大学院情報学研究科 客員助教授(兼務)。2006年、豊橋技術科学大学 情報・知能工学系 教授、現在に至る。
主たる研究分野は、コミュニケーションの認知科学、ヒューマン・ロボットインタラクション、社会的ロボティクス。編著書に『弱いロボット』(医学書院)、『ロボットの悲しみ コミュニケーションをめぐる人とロボットの生態学』(新曜社)などがある。