企業はデジタルエコシステムの中でカテゴリープラットフォーマーを目指せ
IT Trendの今年のテーマは「デジタルエコシステムが描く未来像」。ITR 代表取締役 プリンシパル・アナリストの内山悟志氏は、基調講演の冒頭で一般の事業会社が取り組むべきデジタルエコシステムが今まさに始まっていると主張した。そしてこの「デジタルエコシステム」をキーワードに、これからさまざまなことが始まると指摘する。
基調講演では、「デジタル化の潮流によりどのような未来が到来するのか」「今後注目されるデジタルエコシステム戦略とは」「デジタルビジネス戦略の展開のアプローチとは」の3つの論点について解説した。今後の展開を語るためには、今どんなこと起こっているのか、そこから今後どうなっていくのかを見極める必要がある。現状は、「デジタル産業革命」あるいは「第4次産業革命」と呼ばれる変革が訪れている。インターネット、そしてIoTにより新しい未来が到来しており、その大きなうねりが30年、40年かけて起きつつある。
「過去を振り返れば、資本主義の市場経済が主導してきました。それによりさまざまな産業が生まれ、企業が大きくなりスケールメリット、大量生産、大量消費の世界が生まれました。しかし、すでに先進国では、この市場には飽和感があります。もちろんグローバル化でインドやアフリカなどには、まだ量を求める経済の余地もあります。とはいえ、この形の市場経済は衰退していきます」(内山氏)
資本主義の市場経済に変わり新しい世界が生まれている。それを内山氏は「持続的再利用型経済」と表現する。人々がゼロから作るのではなく共有、再利用し、限界費用を限りなく小さくする世界だ。これがデジタル産業革命であり「今はまさに、その新しい世界の入り口にいます。デジタル産業革命の初期段階にいるのです」とのこと。
大きいことが有利だった世界が変わり、人々は作ったものを長く使うようになった。そして供給側ではなく利用者側のスケールのほうが、より大きな付加価値を生む。ここしばらくは、これまでの資本主義社会とこれからの持続的再利用型経済が組み合わされる「ハイブリッドな経済市場になっていく」と内山氏は指摘する。
「たくさん売ることだけが良い時代は変わり、新たな消費スタイル、新たなビジネスを作らなければなりません。ドイツや米国は、これに向け着々と進めています」(内山氏)
この持続的再利用型経済の世界に向け、すでにさまざまなビジネスが勃興している。その多くがデータ、つながりに着目したビジネスモデルだ。破壊的な勢いで広がり、業界を変えるものも出てきている。それを真似るものも出てきており、さらに進化させたものも出てくる。
こういった新たな動きの中で注目されるのが、デジタルエコシステムだと内山氏は言う。デジタルエコシステムでは、価値連鎖を生み出し仲間を増やしていく。複数の企業が手を携え、お互いに補完しながら仲間を増やしていくのだ。既存の業界を破壊するUberのような存在だけが注目を浴びやすいが、Uberのような企業の成長はデジタルエコシステムの上に成り立っているわけだ。
エコシステムを作り仲間を増やす
内山氏は、このデジタルエコシステムをプラットフォームという視点でも解説した。プラットフォームには2つのタイプがあり、1つはグループをつなぐもの。たとえばAirbnbのように、宿泊したい人と空き部屋を貸したい人をつなぐものがある。
もう1つが拡張性のあるマルチサイドプラットフォームで、楽天経済圏のようなもの。さまざまなニーズがある人とビジネスをつなぐ。楽天には買い物はもちろん、銀行も旅行もある。さらに機能を買収し、新しいサービスをこのプラットフォームにすぐに載せてくる。
多様なプラットフォームがあり、その中でとくにデジタルエコシステムに影響を及ぼすものを「カテゴリープラットフォーム」と呼ぶ。これは特定分野でデジタルエコシステムを築き、その中核に座る存在だ。この例として内山氏が挙げたのが、米国GEだ。
GEは「Predix Cloud IoT」を、産業用に特化したプラットフォームとして提供している。同社はすでに電機メーカーでありながらソフトウェアベンダーになっており、カテゴリープラットフォーマーとしてデジタルビジネスを中核にしたビジネスを展開している。GEと同様にIoT分野のカテゴリープラットフォーマーを目指す動きは、ファナックがシスコと組むなど日本でも起きている。「産業用プラットフォームは、覇権争いの時代に入っているでしょう」と内山氏。
Uberはタクシー業界に大きな影響を及ぼしたが、彼らはすでに次の市場を狙っている。それが小口配送などのデリバリー領域だ。Uberは運輸の世界のプラットフォームを目指しており、いずれは街のプラットフォームとなりものの動き、デリバリーが全部分かるようになる。そこには自動運転技術なども取り入れ、最終的には街を効率化するプラットフォームを目指すことになる。
国内を見ればクックパッドの例がある。クックパッドのユーザーが検索しているデータは、日常的な食、料理に関するものであり、クックパッドにはそのデータが日々大量に集まるのだ。それを分析し食品メーカーなどの事業者に提供して、新しいビジネスを生み出している。さらにクックパッドは、食のプラットフォームから周辺の情報、たとえば子育てや趣味といったところに領域を拡大している。最終的には「暮らしの情報プラットフォーム」になろうとしているわけだ。
このように業界を超えるエコシステムを広げていかないと、すぐにビジネスモデルは真似され追い抜かれてしまう。カテゴリーは業種を超え、他業種、業種間のプラットフォームも出てくる。有利な立場になるには、まずは何かしらプラットフォームを立ち上げ、関心を持つユーザーやプレイヤーなどの仲間を集めることだ。するとそこにはトランザクションが生まれ、データが集まることになる。集まったデータを分析すれば、その分野で一番詳しい存在になれる。そこまで来れば、新たな情報提供や質の向上、さらに分析結果を価値や新しいビジネスにすることで周辺領域を拡大できる。これでエコシステムが広がるのだ。
「エコスシステムでは仲間を増やす必要があります。そのためにはオープンであることも重要です。それで互いにメリットを享受します。共存共栄でどっちらか片方がすごく儲かる、損するでは長続きしません。そこに乗ることがハッピーでなければならないのです。そして、それがないとやってられない存在になる。なくてはならない存在になると、自動的に仲間は集まってきます。そうなるとこの牙城を崩すのは難しくなります」(内山氏)
Googleしかり、Amazonしかり、集まる顧客を価値に変えている。ゼロから彼らに対抗するのは難しい。とはいえ、彼らも常に走り続けなければならないのも事実だ。