放送と通信の融合
テレビ番組を録画するハードディスクレコーダの普及が進んでいますが、最近では1700時間以上も録画できる製品があります。録画可能時間はさらに伸びると考えられますが、人が実際に視聴できる時間には限りがあります。そのため、録画した膨大な番組の中から興味のあるシーンを探したり、限られた時間でハイライトを見たりといった新たな視聴手法に対する要求が高まっています。
そのための研究も進んでいますが、シーンの色やカメラ操作、字幕のテキスト、アナウンサーの声の大きさや、番組中の聴衆の笑い声などを基にインデックス化するため、必然的にテレビ局側から提供される情報に依存せざるを得ず、視聴者の視点に立っているものであるとは言いがたいものでした。
一方、近年「番組実況チャット」への注目が高まっています。番組実況チャットとは、テレビ番組の視聴者がインターネット上のチャットスペースに集まり、テレビ番組を見ながらリアルタイムでほかの視聴者との会話を楽しむというものです。番組実況チャットの代表的なサイトである「2ちゃんねる」では、各テレビ放送局の専用チャットスペースを用意しており、夜中であっても参加者が絶えません。大きなイベント(日本代表のサッカーの試合や人気映画/ドラマの放送など)の放送中には、1分間に1000件以上もの書き込みがあります。
情報通信研究機構知識創成コミュニケーション研究センターの宮森恒研究員を中心とする筆者らのグループは、テレビ番組の内容/進行と1対1で対応しているこの番組実況チャットに注目し、チャットの中から視聴者の「盛り上がり」や「落胆」などの感情情報を抽出することで、テレビ番組にインデックスを付ける技術を研究しています。このインデックスを利用することで、視聴者全体が盛り上がっているシーンや、自分と同じ興味(応援しているプロ野球チームなど)を示す視聴者が楽しんでいるシーンだけを抽出してダイジェストを生成するといった「視聴者反応で見るテレビ」を実現できます。インターネット上でやり取りされる視聴者の生の反応(通信)と融合することにより、テレビ放送の見方が変わってくるのです。