野村総合研究所(以下、NRI)は、2023年9月に国内企業におけるIT活用の実態を把握するため「ユーザー企業のIT活用実態調査 2023年」を実施し、その結果を発表した。NRIでは2003年から同調査を毎年行っており、今回で21回目となる。今回の調査では、IT投資やデジタル化への取り組みなど、従来質問している項目のほかに、「生成AI」に関する質問項目を新たに加えたという。
調査概要
- 実施時期:2023年9月
- 調査方法:事前に郵送で調査協力依頼を送付した後、Webで調査票の回答を回収
- 調査対象:日本国内に本社を持つ売上高上位企業約3,000社
- 調査回答者:各社でCIOまたはIT担当役員、経営企画担当役員、IT部門長、経営企画部門長またはそれに準じる役職者
- 回答企業数:459社
- 回答企業業種:機械製造、素材・他製造、建設、流通、金融、運輸・通信・インフラなど
2023年度および2024年度にIT投資を増やす企業が半数以上
2023年度、自社のIT投資が前年度に比べて増加したと回答した企業は60.9%で、2022年度から8.0ポイント増加した。過去20年の調査結果で最も高く、大手企業におけるIT投資の重要性が高まっていると考えられる。2024年度のIT投資については、2023年度よりも増加すると予測した企業が51.5%とほぼ半数に上り、2022年度(49.0%が増加を予測)と同程度の結果となった。IT投資は引き続き増加傾向であるといえる一方、減少すると予測した企業は10.5%だった。
生成AIの導入率は24.2%(「検討」まで入れると8割)
デジタル技術の導入状況について尋ねたところ、「RPA(Robotic Process Automation)」の導入率が最も高く、69.9%に達した。定型業務を効率化する上で、多くの企業に普及したツールとなったといえるとのこと。「ノーコード/ローコード開発ツール」の導入率は、前回の26.7%から38.8%へと伸び、プログラム開発を効率化したいというニーズが見て取れるという。
「生成AI」の導入率は24.2%で、生成AI以外のAI・機械学習の導入率は28.7%だった。生成AIについては「導入を検討中」との回答が30.8%と多く、「今後検討したい」との回答も26.0%に上ることから、今後の導入進展が期待されるとしている。
生成AI活用に向けて、「リテラシー・スキル向上」と「リスクへの対処」が課題
生成AIの活用に関わる課題については、「リテラシーやスキルが不足している」との回答が64.6%で最も多く、次が「リスクを把握し管理することが難しい」で61.4%に上った。社員のリテラシーやスキルの不足は、これまでのAI活用でも課題とされてきた。一方、リスクの把握・管理については、生成AIが最近注目されるようになった技術であること、また、プロンプト・インジェクションと呼ばれる新しい攻撃手法の登場や、偽情報が出力される可能性、著作権との関連など、これまでにない観点でのリスク対処が必要となっていることが、課題として認識されていると考えられる。生成AIの適用領域を社内のオフィスワークから様々な業務領域へと広げて行く上でも、リスクへの対処は重要な課題であると考えられるという。
デジタル化を担う人材の確保に向けて「スキルの定義・評価や処遇」が課題
2022年の調査でデジタル化の推進において各社が直面している課題を尋ねたところ、「デジタル化を担う人材の不足」をあげた企業が最も多く、80.5%に達した。これを受けて、今回の調査では、IT・デジタル化人材の採用・獲得において、どのような課題があるかを尋ねた。その結果、「報酬や役職の面で、魅力的な処遇を提示できない」が59.4%で最も多く、次が「自社が確保したい人材像やスキル、レベルを定義できていない」で44.7%となった。
また、IT・デジタル化人材の育成においてどのような課題があるかを尋ねた結果では、「スキルを人材の評価に反映する仕組みがない」が51.8%で最も多く、次が「スキル向上・獲得に即したメリット(処遇向上など)を提示できない」で50.5%だった。これらを踏まえると、各社でデジタル化を推進する上で、まず必要な人材像を定義し、従来の処遇や人事制度の枠組みを見直し、必要な人材の確保・育成にあたることが求められているといえそうだとしている。
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