PwC税理士法人は、三菱商事における生成AIを活用した経理業務改革の実証実験を支援したと発表した。
同実証実験は2024年4月~5月の2ヵ月間で行い、最終的には、保証債務に関して契約書や残高証明書からの情報抽出における平均97%の正解率、支払調書の提出要否判定における98%の再現率を達成するなど、高精度に処理できるという成果が得られたという。
今回の実証実験では、実際の業務プロセスの中に生成AIを取り入れ、実務に活用できる可能性が示されたことに。今後は、ユースケースの拡張に向けてさらなる支援を検討していくと述べている。
財務・経理業務では、契約書や請求書などの大量の文書から、経理担当者が目視で必要な情報を抽出し、分類や入力などを行う手作業が多くあるという。そのためPwC税理士法人は、三菱商事主計部(業務プロセス統括室)と連携し、文書の読み取りおよびその後の経理処理におけるAIを活用した自動化・効率化の第一歩として、AI-OCR(人工知能搭載型光学式文字読み取りシステム)と生成AIを組み合わせることによる、以下の業務プロセス効率化の可能性を検証したとしている。
- 有価証券報告書などの開示資料作成に必要となる保証債務に関する情報(「被保証先会社」「保証極度額」「保証残高」など)を、契約書や残高証明書などといった形式の文書から抽出し(平均正解率97%)、データベースとなる一覧表を作成
- 税務申告の一つである支払調書を作成するにあたり、請求書から「会社名」や「摘要」などの情報を抽出し、支払調書の提出要否を判定(再現率98%)
PwC税理士法人は、同実証実験において、生成AIによる自動処理プロセスの構築や税理士法人の知見・経験のプロンプトへの落とし込みなど、要件定義から開発、検証までワンストップでの支援を提供したと述べている。
具体的には、2024年4月の1ヵ月間で、PwC税理士法人においてPDFデータの前処理、AI-OCRによるテキスト化、生成AIによるデータの自動抽出、調書提出要否判定までの一連処理の自動実行フローを構築。2024年5月には、週単位でのスプリント(短期サイクルの開発プロセス)を組むことで、三菱商事担当者のフィードバック反映や最先端手法の実装やプロンプト改善など、注力領域を適宜すり合わせながら、アジャイル開発による精度改善を実施したとしている。
精度改善の過程において、PwC税理士法人が行った効果的な施策例は以下3点だという。
- 支払調書の提出要否判定にあたり、税法上の定義をそのままプロンプトに反映し投入しても精度向上につながらなかったため、PwC税理士法人ならではの税理士としての知見をプロンプトに落とし込み、より具体的な事例や説明を追加
- 三菱商事が保有している過去の判定結果や社内マニュアルの情報について、「Dynamic Few-Shot Learning」と呼ばれる検索AIとDBを組み合わせた手法を用い、プロンプト投入
- 保証債務の開示基礎資料の作成にあたり、契約書、残高証明書、保証書など多種多様なデータから必要項目のみを抽出する必要がある中、プロンプト改善のみでは精度向上につながらなかったため、「契約書専門AI」「残高証明書専門AI」といった「Multi-Agent」と呼ばれる複数のAIが協働する仕組みを実装
同実証実験からは、生成AIの指数関数的な進化を見据えて業務プロセスを設計し、「自社ノウハウの蓄積」と「AIモデルの更新」サイクルを可能とする体制構築によって、中長期での経理業務の効率化・自動化の可能性を明らかにできたという。PwC税理士法人は、今回の実証実験から得られた知見を生かし、対象とする経理業務範囲のさらなる拡大を視野に入れながら、AI処理が可能なユースケースの整理や追加検証など、実用化に向けた支援を継続すると述べている。
【関連記事】
・新潟県三条市がメタバースを活用したまちづくりを促進へ PwCコンサルティング・DNPと連携
・PwCコンサルティング、生成AI実態調査発表「結果は二極化、経営取組み企業が成果大」
・PwC、デジタル分野における法規制対応支援サービスの強化を発表 法令内容、要件整理から実装まで支援