富士通は、NEDOの委託事業である「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」において、AI技術を活用し、モバイルネットワークの通信品質を高めつつ省電力化を図る技術などから成る、ネットワーク運用を高度化するアプリケーションを開発した。
今後は、同アプリケーションをO-RAN仕様に基づく運用管理システム(SMO)「FUJITSU Network Virtuora Service Management and Orchestration」に搭載し、RU(無線装置)で培ったフットプリントを活かすことで、全世界のモバイルネットワーク事業者に向けて2024年11月よりグローバルに順次提供を開始する予定だという。
同アプリケーションは、AIでネットワーク品質をリアルタイムで推定し品質を維持する技術と、イベント開催時などネットワーク品質の劣化を未然に防止する技術、基地局のカバーエリアを再設計して品質を維持する技術の3つで構成され、運用環境に近い条件下での検証で有効性を確認しているとのことだ。
これにより、モバイルネットワークの利用者が期待する「つながりやすさ」を、通常時だけでなく自然災害などの有事やイベント開催時にも実現し、利便性と満足度向上、有事の安全性確保につなげるとしている。モバイルネットワーク事業者においては、トラフィック量に応じた適切な運用により運用コスト削減、省電力化を支援すると述べている。
今回の成果
AIを活用しモバイルネットワーク利用者のQoEのリアルタイム推定と品質確保を実現
QoEをリアルタイムで推定し、QoE低下を検知した際には、自動的に他の基地局のネットワークエリアに切り替える技術を開発したという。
同技術は、100GbpsのRANのトラフィックに対応した高速なパケット解析から、利用者単位、アプリケーション単位の統計データ(KPI)を算出し、そのKPIから特徴量を選択するだけでアプリケーションごとのQoEを推定するAIモデルを生成する技術で、多様なアプリケーションに柔軟に対応できるとしている。
これにより、利用者一人ひとりのQoEを正確に把握し、必要なリソースを割り当てることで利便性・満足度を確保しつつ、過剰リソースを抑制することで1つの基地局あたりの収容利用者数を19%向上させることが可能になったとのことだ。
通信トラフィック上昇を予兆検知し、基地局の起動・停止により品質維持と省電力化を実現
自然災害などの有事やイベント開催などの際に、通信トラフィックが通常時から上昇していることをAIで予兆検知することで、それまでスリープさせていた基地局を事前に起動させ、利用者の通信品質の劣化を未然に防止する技術を開発。
これまでは、エリアごとのトラフィックをリアルタイムに監視し、起動させる必要のない基地局をスリープさせることで省電力化を図っていたという。今回はそれに加え、たとえば地域のイベントなど、通常時とは異なる人流の増加を検知することで、その後のグリッド単位でのトラフィック上昇を予兆する技術を開発。この予兆検知技術により、実証期間の99.8%の時間で利用者品質に影響を与えず、事前に基地局を起動することを実現したとのことだ。
これにより、トラフィック状況に応じたきめ細かい基地局起動・停止を行い、富士通が2023年12月に発表した省電力アプリケーションと組み合わせ、QoE維持と省電力化の両立を可能にし、利便性と満足度向上、有事の安全性確保や社会課題の解決に貢献するとしている。
サービス品質の劣化検知とエリア再設計によるサービス品質維持
単一セルにおける異常検知技術では、トラフィックの低下要因が単純な負荷低下なのか、異常なのかの判断が困難な状況があったという。同技術では、単一セルではなく、周辺セルとトラフィック傾向を比較してAIにより判断することで、高い故障検知精度(適合率92%以上)を実現。少ない故障データでの教師あり学習や、教師なし学習にも対応しているとのことだ。また、セルの重畳状況を踏まえたサービス影響度を把握することにより、優先的に復旧させるエリアを判断することが可能だとしている。
この異常検知技術によって、サービスへの影響が大きいと判定されたエリアに対して、同技術ではさらに、影響があるエリアを救済するため、周辺セルの指向方向や負荷状況に加えて、実フィールドのパスロスを考慮した電波伝搬予測モデルにより、最適な周辺セルにおけるチルト角の算出を行い、故障セルによるサービス品質への影響を最小化。これにより、装置故障など異常発生時において、これまで復旧までに1日程度かかっていたところを、1時間以内に短縮し、利用者への影響を最小限にとどめることに成功したという。
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