2026年6月30日、東京国立博物館(以下、東博)、内田洋行、文化財活用センターは「日本美術のとびら」リニューアルに関する記者会見を開催。新コンテンツ「とーはくワンダーウォール 一期一会〜きょう、出会う一点〜」の狙いや概要について説明した。
(左から)東京国立博物館 館長 藤原誠氏
株式会社内田洋行 代表取締役社長 大久保昇氏
文化財活用センター 企画担当課長 藤田千織氏
「日本美術のとびら」は2021年からスタートした、東博と文化財活用センターが主催する体験型展示の名称。今までは高精細な複製品の展示とともに、日本美術の歴史を時系列で紹介するデジタル年表を同展示で見せていた。今回、リピーターなどへの影響も鑑みてリニューアルしたという。
東博で館長を務める藤原誠氏によると、同館の年間を通じた来館者数は約250万人に及ぶ。そのうち本館のコレクション展、すなわち常設展を訪れる外国人の割合が約半数近くに達しているという。そのため、多国籍かつ多様な来館者に対して、国籍や言語、歴史的知識の有無を問わず、日本美術の魅力を直感的に楽しんでもらうための仕掛けが求められていた。
そこで今回は、日本語、英語、中国語、韓国語の4ヵ国語に対応し、多言語での解説環境を提供する体験型展示の仕組みを採用。藤原氏は、今回の展示が新たなツールとして機能し、多くの来館者に体験してもらうとともに、関係者を通じてその魅力が広く発信されることへの期待を示した。
続いて登壇した内田洋行 代表取締役社長の大久保昇氏は、オフィス環境や教育空間の構築、そしてコンピュータやネットワークのシステム構築を主業とする同社が、なぜ文化財のデジタルコンテンツ制作に関わっているのかについて説明。それは、同社が長年注力してきたユニバーサルデザインという視点が関係している。
同社はパソコンやタブレットが普及する以前から、自治体の図書館や教育の現場において、誰もが等しく情報にアクセスしやすく、見やすいアプリケーションの提供に努めてきた。特に多数のデータやコンテンツを扱う空間においては、利用者が直感的に情報を理解できるデザインが重要であり、そのノウハウが今回の展示開発にも生かされている。
かつても同社と東博は、13年前の「書聖王羲之」特別展や「顔真卿」特別展などで協力を重ねてきた。「東博が誇る集客力と、120,000件を超える膨大な収蔵品、そして1回の展示替えで数百点もの名品が入れ替わるという圧倒的な規模感に魅了されてきた」と大久保氏。しかし、それほどの文化財を収蔵していても、実際に展示されている作品数は約3,000件に限られている。
この限られた作品との出会いをいかに価値あるものにするかという課題に対し、同社は文化財活用センターが有する統合検索システム「ColBase」のデータベースと、東京国立博物館のリアルタイムな展示情報データベースを連携させるシステムを開発。このデジタル基盤により、その日に展示されている作品の中から、来館者ごとに異なる文化財との出会いを創出するインタラクティブコンテンツ「とーはくワンダーウォール 一期一会〜きょう、出会う一点〜」が具現化された。
今回のコンテンツでは、来館者の興味や関心に合わせて文化財にアクセスできる、6つの切り口が設けられている。なお、切り口については50名を超える東博の専門研究員が初期段階から議論に加わり、何が最も面白いのか、何を伝えるべきなのかという視点から考えられたとのことだ。
具体的な展示内容とシステムの詳細については、文化財活用センターの藤田千織氏から解説がなされた。今回のリニューアルでは、幅14メートルの大型スクリーンに映し出される映像と、来館者の動きを感知するモーションセンサーを用いた体験型コンテンツへと刷新。高精細複製品の展示スペースについても、屏風の展示位置をより低く、かつ近くに配置することで、小さな子どもや車いすの来館者でも見やすいように空間設計が見直されている。
新コンテンツは、15分おきに上映される約2分間のプロローグ映像と、インタラクティブ体験モードの2部構成となっている。特別映像では、1872年の湯島聖堂博覧会から2022年の創立150周年に至る同館の歴史を軸に、国宝「松林図屏風」や「古今和歌集(元永本)」、重要文化財「遮光器土偶」などの名品が登場し、館内の法隆寺宝物館や黒田記念館といった異なる展示館の魅力も横断的に紹介する。
映像の背景には金銀が煌めく料紙の質感が再現されており、これは研究員からの細かな要望を映像演出に落とし込んだ成果だという。また、映像の背景音楽は、作曲家の田中文久氏が手がけたオリジナル楽曲が採用され、弦楽四重奏による音響空間が演出されている。
映像終了後に起動するインタラクティブ体験モードでは、スクリーンの前に立った来館者の動きをセンサーが感知し、「今日、あなたが出会うべきおすすめの一点」をシステムがリアルタイムで表示し、提案する。藤田氏はこのコンテンツの企画背景として、来館者の潜在的な課題があったことを語った。
同館には120,000件以上のコレクションがあるが、初心者の来館者からは「広大な館内のどこから何を見ていいのか分からない」という声が出ていた。また、リピーターの来館者にとっても、目当ての国宝や名品が常に展示されているとは限らない。文化財は保存上の理由から年間の展示日数が厳格に制限されており、定期的に展示替えが行われているためだ。
藤田氏はこの状況を「今日この場所で特定の文化財と出会えたこと自体が、二度とない“一期一会の巡り合わせ”であると考え、このコンセプトをシステムに組み込んだ」と説明する。システムは単にランダムに作品を選ぶのではなく、来館者が選択したテーマに基づいて作品を抽出する。画面には、以下6つの切り口からランダムで4つ提示され、鑑賞者は各テーマが表示された画面の前で手をかざすことにより、画面を操作できる。
- 研究員の推しと出会う!:東博の研究員が選んだ「推しの名品」が表示される
- 一期一会ガラポン!:その日、その時の運。くじ引きのようにガラポンを回して、「見るべき一点」と出会う
- 東博をめぐってお宝と出会う!:散策がてら出会える、少し離れた展示館にある名品を提案する
- 国宝や重要文化財と出会う!:特に国宝、重要文化財の中から一点をピックアップ
- 日本らしいお宝と出会う!:サムライ、古典芸能、着物といった、「日本」と聞いてイメージされる展示作品と出会える
- 博物館で世界と出会う!:日本美術・アジアの美術・世界の美術という3つのテーマから1つを選んで、作品を紹介
この選択情報をもとに、システムは現在の展示作品リストデータベースを検索し、条件に合致し、かつ「今日必ず展示室で見られる作品」をColBaseの画像データや解説文とともにスクリーンに表示する。提案された作品には、その作品が展示されている館内の具体的な展示室やコーナーの情報も同時に表示されるため、来館者は迷うことなく実物の文化財へとアクセスすることができる。
藤田氏は「自分だけの作品に会いに行く理由が生まれることで、博物館での鑑賞体験がより能動的で深いものになる」と語る。このシステムは言語を問わず直感的に操作できるよう設計されており、国内外のあらゆる来館者が日本美術の奥深さに触れるための入り口として機能していくことが期待されている。
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