2025年12月に発足した「Agentic AI Foundation(略称:AAIF)」──Linux Foundation(Linux財団)の傘下組織であり、現在は約250の企業・団体が会員として所属する。エージェンティックAIの進化と普及が超スピードで進む中、特定企業による囲い込みを防ぎ、エージェント間の相互運用性や安全性を確保することを目指す組織だ。

CTO(最高技術責任者)のマニック・スルタニ氏は、エージェントがあらゆるシステムやツールとつながり、ベンダーの境界を越えて相互運用性を実現する“Internet of Agents(インターネット・オブ・エージェンツ)”へと段階が移行していることを踏まえ、オープンスタンダード/オープンソースの重要性を改めて強く訴えた。政府や金融、エネルギー、医療などの重要インフラが、一社に依存してしまう状況は果たして健全だろうか。また、各エージェントとシステムを個別に接続するカスタムインテグレーションの乱立は、長期的に見て負債になってしまわないだろうか……。
従来の「情報のインターネット」が何でも自由に発表できる世界であるのに対し、「エージェントのインターネット」は、自由に行動を起こせる世界であるとスルタニ氏。その分、ガバナンスが極めて重要になると警鐘を鳴らす。
Agentic AI Foundation(AAIF) 最高技術責任者(CTO)
マニック・スルタニ(Manik Surtani)氏
クローズドな環境で勝者は生まれない──エグゼクティブディレクターを務めるマジン・ギルバート氏は、オープンスタンダードとオープンソースこそが唯一の解決策だと強調する。
Agentic AI Foundation(AAIF)エグゼクティブディレクター
マジン・ギルバート(Mazin Gilbert)氏
エージェンティックAIには、下記5つのレイヤースタックがある。
- ハードウェアインフラ:GPUやTPU、カスタムアクセラレータ、ネットワーク、エッジデバイス
- ソフトウェアインフラ:Kubernetes、コンテナ、サービスメッシュ、メッセージキュー、データベース
- インテリジェンス:基礎モデル、ファインチューニング、推論、埋め込み、モデル、サービング、量子化
- エージェントプラットフォーム(MCP、AGENTS.md、Goose、Gateway):エージェント開発とランタイム、プロトコル、データと知識、ガバナンスと制御、可観測性と信頼性、信頼性と安全性
- ユーザーアプリケーション:チャット&音声UI、IDEプラグイン、組み込みエクスペリエンス、エージェント、ストアフロント
このうち、AAIFが注力するのは「エージェントプラットフォーム」のレイヤーだ。特定のモデルには依存しないものの、プロトコル層で失敗が起こると全体に影響が及ぶため、ロックインリスクが最も高い領域だという。
主な活動内容としては、①ベンダーニュートラルな標準規格の開発、②MCPをはじめ基盤技術などのコミュニティ主導プロジェクトの主催・支援、③技術プロバイダー、企業、研究者、開発者の枠を超えた連携、④透明性の高いガバナンスフレームワークの提供、⑤コミュニティ形成やグローバルイベント開催などを通じたコラボレーション創出、⑥教育・研修、技術リースや認証の実施が挙げられた。現在は6つの主要プロジェクトを保持しており、40以上の提案が来ているという。2026年末までには10以上のプロジェクトを保持する見通しだ。
主要プロジェクト(例)
- Agent to Agent(A2A):エージェント同士が相互理解し安全に通信するための標準プロトコル
- Agent Router:エンクレイブ(高隔離安全領域)プロキシやKubernetesデザインをともない、ポリシー強化、モデルフェイルオーバー、トークン消費モニタリングを行うゲートウェイ
- Agentic Commerce WG:エージェントによる商品発見、支払い、エラー発生時の責任追及などを検討するワーキンググループ
同組織の日本ディレクターを務める福安徳晃氏は、日本の産業界におけるエージェンティックAIとAAIFの意義について述べた。まず、インフラからエージェントに至るまでオープン化が進んでいるというのが、グローバルにおける今日の状況だ。こうした技術レイヤーでのコモディティ化が進むと、土台の技術それ自体は差別化の源泉になりにくくなるため、データの価値をいかに最大化できるかが、AIビジネスの競争軸となる。これにともない、テック界では巨額投資による大規模LLM構築の勝負から、データの質や既存サービス/アプリケーションとの有機的連携へのシフトが起こっている。

福安氏は、これは日本企業にとっては追い風になるとの見方を示した。年間何十兆円という規模感でのLLM構築競争は日本企業にとっては現実的に厳しい。しかし、産業の現場には質の高い現場データが豊富に存在するため、小型モデルと自社データをつないで価値を生むエージェンティックAIの競争なら、日本企業の強みを発揮できる。
その際、課題となるのが標準プロトコルと自社データの構造・セキュリティ要件との間に生じるギャップだ。製品開発コストの構造においてこのギャップを埋める部分が、日本企業にとって戦略的投資領域として価値があるという。
また、オープンレイヤーに投資することで、自社に有利な土俵(≒ルール)を作ってスイッチングコストを最小化し、技術基盤が無償化されることで、強みである「データ」での競争に集中できるようになる。日本企業が世界的なルールメイキングに対するプレゼンスを強めるために、AAIFが役に立つというわけだ。
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名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)
サイバーセキュリティとAI(人工知能)関連を中心に、ソフトウェア/ハードウェアを問わず国内・海外の最新技術やルールメイキング動向を取材。そのほか、DX推進、企業財務・IRなどのコーポレート領域でも情報を発信。武蔵大学 経済学部 経済学科 卒業。
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