70%がデジタル技術の可能性を評価するも本格導入に移るケースは25%
アクセンチュアの最新調査レポート「Emerging Technologies in Public Service」では、福祉サービス、警察・司法、税務、出入国管理、年金・社会保障、行政といった、市民に直接かかわるさまざまな機関におけるデジタル技術の導入状況が報告されている。
アクセンチュアでは、このレポート作成にあたり、日本を含む世界9か国の行政機関に在籍する約800名の技術担当者を対象にアンケートを実施し、デジタル技術の導入および試験導入の状況を調査した。デジタル技術には高度なアナリティクスおよび予測モデリング、モノのインターネット化(IoT)、インテリジェント・プロセスオートメーション、動画アナリティクス、生体認証/アイデンティティ アナリティクス、機械学習、自然言語処理/生成が含まれる。
レポートによれば、調査対象となった行政機関の3分の2以上(70%)がデジタル技術のもつ可能性を評価していたものの、検証を終えて本格導入に移るケースは少数(25%)に限られている。つまり行政機関の大半が、こうしたデジタル技術の価値を認めていていながらも、その価値を活かしきれていないことを示している。一方、ほとんどの組織で依然として旧来型の業務基盤が用いられている中、予測モデリングを含めた高度なアナリティクス技術に代表されるデジタル技術が、かつてない規模で導入されつつあることも明らかになっている。
アクセンチュアの公共サービス・医療健康本部で官公庁向けアナリティクス・インサイトの責任者を務めるテリー・ヘムケン氏は次のように述べている。
「デジタル技術の活用は、行政機関が抱えるリソースにまつわる主要な課題に対処できるだけでなく、拡大する市民ニーズに対応するための革新的なアプローチを提供する上で非常に大きな価値をもたらします。行政機関はソーシャルやモバイル、セルフサービス型の技術活用という時流に応えるために、革新的な技術を導入してデータの価値を最大限に活かしていく方向に舵を切る必要があります」
80%がデジタル技術の導入によって職員の「仕事の満足度」が向上すると回答
今回の調査では、予測モデリングを含めた高度なアナリティクスの導入を進めている行政機関の半数近く(48%)が、こうした技術の主な導入目的として「職員の業務改善やサポート」を挙げており、5分の4(80%)の回答者がこうしたデジタル技術の導入によって、職員の「仕事の満足度」が向上すると答えている。
調査対象となった行政機関において、高度なアナリティクスは「業務パフォーマンス評価」に用いられており、年金/社会保障(50%)、税務(49%)の各分野では、回答者の約半数が導入にあたって最も重視する理由として挙げている。また、「データ保護やセキュリティの問題への対応」は、出入国管理では52%、税務では46%、年金・社会保障では39%と、複数の分野でアナリティクス活用を行う最大の理由として挙げられている。
今回の調査では、「市民の満足度の向上」のためには、動画分析や生体認証、機械学習、モノのインターネット化(IoT)といった、さらなるデジタル技術の導入が重視されていることが明らかになっており、回答者全体の4分の3以上(78%)が、機械学習技術を導入中、もしくは導入済みと回答している。
最新テクノロジー導入のメリット
今回の調査で、高度なアナリティクスをはじめとするデジタル技術の導入は、あらゆる行政機関にメリットがあることが明らかになった。このうち、期待されるメリットとして最も多く挙げられたのが、「自動化による働き方の改善」「サービスの改革と新サービスの開発」「コスト削減」だった。
デジタル技術導入のための投資を決定する際に最も期待する点は、すべての分野の回答者に共通して「リスクの低減とセキュリティの向上」が挙げられており、これらに関連する技術は、税務および年金・社会保障に関連する機関で検証や導入が最も進んでいることが明らかになった。税務、行政、警察・司法、出入国管理の各機関では、「サービスの改革と新規サービスの開発」が2番目に多くなっている。さらに、総合社会サービス、年金・社会保障分野では自動化による業務効率化も期待されるメリットとして挙げられている。
前述のヘムケン氏は「デジタル技術の導入パターンは、業務分野や地域によって異なるものの、共通して言えることは、行政機関が積極的にデジタル技術を活用して市民や職員へのサービス変革を図ろうとしていることです。行政のトップはデジタル技術を導入した価値向上に注力すると同時に、職員に改革意識を持たせる内部環境を醸成する必要があります」と指摘している。