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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

このシステムは完成したのか?自分で見分けられないユーザ


 昨今は、ユーザ企業も自社のITを自分達で企画し、その導入においてもプロジェクトを自身で主導しなければならないことが多くなってきました。企業活動におけるITの重要性は以前から言われてきたことですが、たとえばメルカリやウーバーなど、それまでにないサービスをITで実現しようとするとき、どんなシステムを作れば良いのかを考えられるのはユーザ側の方です。また、昨今はクラウドサービスを使うケースも増えています。クラウド業者は定型的なサービスは提供しますが、ユーザ企業の要望に会わせてカスタマイズや設定変更を行うという作業には、それほど熱心ではありません。そのあたりを旧来のSIベンダにやってもらうにしても、SIベンダの方も自分達のクラウドでない以上、責任を持てない部分も多いのが現状で、プロジェクト全体を本当の意味で主導しきれないケースが増えています。

 こうしたときには、ユーザ企業自身が自ら先頭に立ってシステム開発プロジェクトを推し進めなければなりませんし、前述した会社などは、正にそうやって成功を収めています。

 一般的な日本企業に目を向けると、「本当にこれで大丈夫かな?」と首をかしげたくなるような会社、つまり、自社が主導してITを導入するだけの知識やスキルが乏しい会社がいくつもあります。

 今回は、そんなユーザ企業の知識・スキルのなさが招いた事件についてご紹介しようと思います。ちょっと読むと「なんだか情けない会社だな」と思うかもしれませんが、果たして皆さんの会社が本当に、こうならないと言い切れるでしょうか? そんな目で読んでみてください。

ユーザ企業の知識不足が混乱させたプロジェクトの例

  (大阪高等裁判所 平27年1月28日判決より)

 あるユーザ企業がベンダに経営情報システム(本件システム)の開発を委託し代金の一部約6800万円を支払ったが、結果的にシステムは完成しなかったと述べて契約を解除し、債務不履行による損害賠償請求(または原状回復請求)として代金相当額の返還を求めて、裁判となった。

 これに対してベンダは契約解除は無効であり、また保守業務あるいは契約外も業務を実施したとして約7000万円の支払いを逆に求めた。

 このプロジェクトでは、訴外のコンサルタント会社が基本設計を行い、ベンダ企業は、それを受けて詳細設計を行うこととなっていたが、その途中、ユーザ企業の判断でコンサルタント会社はプロジェクトを脱退してしまった。コンサルタント会社の作成した基本設計書は脱退時点で不十分なものであり、ベンダ企業は自身で基本設計をやりなおすという提案を行ったが、ユーザ企業は拒絶した。

 その結果、プロジェクトは既存の基本設計書をそのままに、その作成責任者をベンダに切り替え、ベンダの作る詳細設計書に基本設計書を組み込むという異例な体制をとることとなったが、出来上がったシステムには不具合が残存しており、ユーザ企業はシステムの未完成を主張して、損害賠償請求に至った。

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それでもベンダの責任は問われるのか

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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