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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

ユーザ側の責任と協力の重要性

 今回取り上げるのは、前回と同じ判決です。前回はIT開発においてユーザがプロジェクトの進め方や、IT開発では完成後に多少の不具合が残存するということ等について、知識がなかった為に、プロジェクトが混乱したという事例をお話ししました。念のため、前回の概要と判決について、もう一度、ご紹介します。

ユーザ企業の知識不足が混乱させたプロジェクトの例

  (大阪高等裁判所 平27年1月28日判決より)

 あるユーザ企業がベンダに経営情報システム(本件システム)の開発を委託し代金の一部約6800万円を支払ったが、結果的にシステムは完成しなかったと述べて契約を解除し,債務不履行による損害賠償請求(または原状回復請求)として代金相当額の返還を求めて、裁判となった。

 これに対してベンダは契約解除は無効であり、また保守業務あるいは契約外も業務を実施したとして約7000万円の支払いを逆に求めた。

 このプロジェクトでは、訴外のコンサルタント会社が基本設計を行い、ベンダ企業は、それを受けて詳細設計を行うこととなっていたが、その途中、ユーザ企業の判断でコンサルタント会社はプロジェクトを脱退してしまった。コンサルタント会社の作成した基本設計書は脱退時点で不十分なものであり、ベンダ企業は自身で基本設計をやり直すという提案を行ったが、ユーザ企業は拒絶した。

 その結果、プロジェクトは既存の基本設計書をそのままに、その作成責任者をベンダに切り替え、ベンダの作る詳細設計書に基本設計書を組み込むという異例な体制をとることとなったが、出来上がったシステムには不具合が残存しており、ユーザ企業はシステムの未完成を主張して、損害賠償請求に至った。

 裁判はベンダ側の勝利に終わりました。裁判所は、ユーザはシステムが完成していないと主張するが、受入テスト段階で検出された不具合は、ユーザ自身の行ったテストの方法や使用したデータに問題があったものや、軽微で容易に改修できるものばかりであって、そうした点を勘案すれば、システムは完成したものとして見なせる。ユーザはベンダに費用を支払わなければならないと述べました。

次のページ
“ベンダの謝罪”は裁判で重要視されるのか

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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