ビジネスサイドから求められるシステム運用の条件とは
講演者の梅根氏が所属するマイクロフォーカスエンタープライズは、COBOLなどのソリューションで知られるマイクロフォーカスとヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)のソフトウェア部門が統合し、2017年9月に誕生したばかりの新しい会社だ。統合後は世界7位の規模となる。
同社はDevOps、IT運用、クラウド、セキュリティ、情報ガバナンス、Linuxとオープンソースの6つの柱で多数のソリューションを提供しており、ビッグデータ分析のほか、画像や音声、映像といった非構造化データの分析などにも実績を持つ。その中で、特にシステム運用に欠かせないソリューション分野が、DevOps、IT運用、クラウドだ。 梅根氏はそれらが求められるものの背景として、企業のITインフラとシステム運用が“ハイブリッド化”していることを挙げる。
「メインフレームからクライアントサーバシステム、オープンシステムなどの環境が新旧混在した“ハイブリッド環境”の下では、システムと業務との対応は1:1に留まらず、複雑化しているのが実情です。また、横軸で時間の変化も念頭におく必要もあるでしょう。つまり、祖父母世代から孫世代までを全てを同じ人員で運用管理しなければならない状況にあります」
その中でも、世代交代というべきパブリッククラウドへの移行の相談が増えており、現行システムの運用を保持しつつ、新しい運用体制を構築する必要性が生じているという。そうしたシステム移行の場合、「できるところから」が基本となり、なかなか移行できない部分が生じる。移行の可否というより、「どのタイミングで移行するか」「どのくらい放置するか」など、個々の企業によって要件が異なる。
そのため、単純に自動監視システムやパブリッククラウドへの移行のソリューションだけでなく、従来のシステムを含めた「トータルな運用」をどうデザインしていくかが課題となる。各企業によって異なる“要件のデコボコ”を吸収することが、マイクロフォーカスエンタープライズのソリューション提案ポイントとなるという。
移行だけでも1年から10年かかる状況下で、ビジネス視点からシステム運用に求められるのは、「リスクの低減」「アジリティの追求」そして「付加価値の提供」だ。
「多くの責任者が『エンドユーザーに迷惑をかけないように移行したい』とおっしゃいます。エンドユーザーにとって現行業務の品質維持は最低限の条件。稼働性やキャパシティの担保は欠かせません。その上でパブリッククラウドの特性を生かしたいということで、アジリティの追求についての関心は高いです。そして、単なる移行ではバージョンアップに過ぎないとして、付加価値を求められることも多いです。このタイミングで新しい機能を追加したい、運用プロセスを改善・強化したいといった要望はよく聞きます」
このように梅根氏が語るビジネスサイドの要件を満たすものとして、まず運用の「リスクの低減」のために、ユーザー視点を重視した次世代監視基盤の構築が求められる。さらにそこにはサーバー群やアプリケーション群の短期的な依存関係など、動的に変わる構成群の把握が不可欠だ。
そして、パブリッククラウドの特性を生かした「アジリティの追求」にはDevOpsスピードの確立や、End-to-Endの自動化、高速開発環境の整備などが挙げられ、「付加価値の提供」としてはやや副次的ながらビッグデータを取り入れることを提案することもあるという。もちろん最も担保するべきは「リスク低減」であり、その上で移動しやすい部分やコストバランスなどを見ながら調整しつつ、移行を進めることになる。
運用実行前のアセスメントや移行も“運用の一部”として捉える
それでは実際にどのような流れで、ハイブリッドIT環境のシステム運用を最適化していくのか。梅根氏は「運用実行前のアセスメントや移行も、ハイブリッドIT環境の運用の一部」と語る。そしてそれぞれにマイクロフォーカスでは対応するソリューションが用意されているという。
まず「収集」のフェーズでは「構成の把握」が目的となる。UD(Universal Discovery)/ UCMDB(Universal CMDB)を活用し、インフラやミドルウェア、その上で動いている業務などを、telnetのような既存のプロトコルで自動的に情報収集し、マッピングしていく。例えば、仮想環境であれば、物理ホストとゲストOS、Vスイッチの関係性などが相当する。また「業務」はユーザー固有のものになることが多く、業務サーバーからExcelやCSVなどで情報を引き抜き、ミドルウェア以下のものにマッピングさせていくという。
「ざっくり言えば、シートに分かれたExcelのような二次元で管理できないデータ群を、トポロジのような形で管理することで関係性を出すというのがポイントになります。そのマッピングによってどの業務がどのインフラやミドルウェアと関係しているのかが明らかになり、移行の難易度が大体わかるというわけです」(梅根氏)
近年の移行先としてはパブリッククラウドが多いが、AzureもAWS、Googleもそれぞれ仕様が異なり、業務内容や使用期間などでも用途が異なる。そこで次に収集した情報を「Cloud Assessment」で分析する。サーベイや移行ステータスから得た情報を集約し、クラウドに置きやすいもの、置きにくいもの、置いた方がいいものといった要件に応じて評価するというわけだ。その上で大まかなスケジュールとして提案する。
その次の「計画」フェーズのポイントとなるのが「移行の難易度と順番」だ。「PlateSpin」でサーバーやアプリケーションの依存関係をもとに移行のためのプランを立て、プロジェクトごとに進捗を管理し、移行に向けたタイムラインの策定を行う。実際の「移行」フェーズでは、物理サーバー、仮想環境、パブリッククラウドの三者の間で、データをバックアップ、コピーし、差分移行を行う。計画段階の機能と照らし合わせながら移行し、「PlateSpin」などの移行ツールを使えば失敗した場合は切り戻し対応も可能だ。
そして、システム移行前後には、「LoadRunner」や「Diagnostic」「SiteScope」などによるGUIに関する機能検証や回帰テストの自動化も欠かせない。たとえば、エンドユーザーが行う画面操作を自動で記録し、そのシナリオが適切かどうかを判断したり、スクリプトとしてアプリケーションを自動操作して本当に問題なく実施できたかを確認したりする。さらに負荷についても移行前後でテストを実行し、前後で異なるのか、現在負荷がかかる場所はどこかなどを可視化するというわけだ。
そして、実際の「運用」のフェーズでは、監視基盤の構築がカギになる。従来からインフラ監視は定番の施策だが、ネットワークやサーバーから見た状況がユーザーの実感値と異なることも少なくない。そこを補完するためにユーザー視点での監視が求められるが、監視は容易でも原因究明は困難だ。そこで「Operations Bridge」ではデータ収集時に把握したシステム構成のトポロジを利用して、ユーザー視点で問題があれば、ドリルダウンして原因を究明する。近年では、モバイルアプリの監視もユーザー視点で行なうことが増えているという。
しかし、こうした監視基盤もシステム構成の変化にキャッチアップできなくては意味がない。そこで、パブリッククラウドなら用意されているAPIとの連携や、監視ツールなどからの情報取得により、長期的・短期的な変化を把握する。しかし、こうしたツールから情報を取得することは容易でも、それを統合しマッピングすることが難しい。そこで、仮想環境であれば物理&仮想ホストの関係などが地図としてあらかじめ用意されるので、そこに収集した情報をマッピングするというわけだ。ミドルウェア以下は自動化にて、そして組織ごと独自性の高い「業務」のみを手作りで対応させていく。
運用にビッグデータを活用し、新たな付加価値の提供を
さらにハイブリッドクラウドに求められるものとして「アジリティの追求」があり、「DevOpsスピードの確立」は大きな課題となる。
「そもそもサーバーの構築などはAPIなどで自動化が進み、立ち上げが比較的容易になってきています。しかし、問題は「フローをどのように対応させるのか」、「どうメンテナンスしていくのか」などはまだ十分に自動化されているとはいえません。となると、『いかに手順を実行したいエンドユーザーに渡すか』がカギでしょう」(梅根氏)
確かにいくら自動化しても、自動化のトリガーになる人が動かなければ、結局はIT管理者が自動化を実行せざるを得ない。そうなれば、自動化の範囲を広げる意味でもEnd to Endの自動化が求められる。つまり、必要な時にすぐに必要なものを立ち上げるためには、認証フローもスムーズに連携していることが大切だ。例えば何かサイトを立ち上げる時、走らせる前の容量チェックや他のシステムへの干渉などを事前に確認し、認証処理はポータルの裏側で行うことになる。さらに、作ったものはいつか壊す必要が生じる以上、自動化の処理をライフサイクル管理まで行うことがEnd to Endの自動化のポイントの一つと言える。
そして、DevOpsの観点で言えば、開発担当者からテスト担当、ステージング担当、運用担当まで「各フェーズでいかにつなげていくか」が大切だ。そのためには共通の基盤として、いずれの担当者も同じものを見るような環境が求められる。開発者がボタン一つでリリースすると、テスト環境が構築され、作ったモジュールが置かれ、必要なテストが実行される。終われば開発者にフィードバックされ、環境は壊される。マイクロフォーカスでは、「テスト環境テストのシナリオ」「テストされるモジュール」「モジュールが動く環境」の三位一体で管理していくソリューションを提案しているという。
「こうしたソリューションは言うは簡単ですが、プロセスを標準化することがとても大変です。そのため、エンタープライズのような大規模なお客様の場合は、PoCなどの始めやすい部分から展開して、全体に広げていく方法が良いと思われます。つまり、ツールの話をしながら、どこのプロセスを改善していくかを考えることがポイントとなります」(梅根氏)
そして、パブリッククラウドへの移行における付加価値として「ビッグデータを監視に活用すること」を提案することがあるという。集めた情報で性能などの傾向を見て、普段と違うところを炙り出す方法だ。例えばリアルタイムで取った値が、普段と違う動きをしていたとすれば、動的な閾値の設定で普段と違う数字や傾向が出たらアラートをあげるようにもなっている。
そして、2つ目の「ビッグデータの活用」として、インシデント管理が紹介された。例えばサービスデスクなどにおいて、集まったインシデントに対してビッグデータを適応して「よくある問い合わせ」を上位でランキングしたり、インシデントの分類を自動的に行ったり、できるだけ処理を自動化する仕組みを提供するという。
最後に梅根氏は「これまで紹介してきたものは代表的なものばかりですが、各フェーズで課題はまだまだたくさんあります。特に運用の中でも、単純に監視や調査といった狭義のものだけでなく、モダナイゼーションという長期的な視点で移行を進めるのは大切なこと。ぜひ、マイクロフォーカスエンタープライズのソリューションを活用してほしい」と語り、まとめとした。