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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

不具合だらけのシステムでも検収行為は義務?

 日本を代表する(?) 大泥棒である石川五右衛門は「石川や浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ」という辞世の句を残したと伝えられていますが、これをITの世界に置き換えるなら、「世に不具合の種は尽きまじ」とでもいうべきでしょうか。時代がスクラッチ開発からパッケージ利用、そしてクラウドの世の中になっても、やはりソフトウェアのバグや設定ミスといった不具合は後を絶つことがなく、今回取り上げる判決の中でも裁判所が「ソフトウェア開発においては、初期段階で軽微なバグが発生するのは技術的に不可避であり」というように、ITを導入する際には、ほぼ100%の確率でなんらかの不具合が発生することを、ユーザ企業は覚悟すべきなのかもしれません。この辺りは、この連載でも何度となくお話ししていることです。

 今回も、そんなITの不具合についてのお話です。特に注目したのは "契約解除"と"検収"の関係です。システムの開発をベンダに依頼したがテスト段階から不具合が多く、検収前に契約を一方的に解除してしまった。そんな話は本当によくあることです。気を付けなければならないのは、迷惑を受けたはずのユーザ側が協力義務違反、つまり違法行為とされることがあるのです。今回は、そうした判例についてお話ししたいと思います。

 実は今回取り上げる判例は、別の観点ですでに取り上げていますが、(https://enterprisezine.jp/article/detail/10622?p=3) ユーザの協力義務に関しても重要な示唆をくれる判決ですので、改めて取り上げてみます。

不具合のあるシステムを作ったベンダと検収をしなかったユーザ

  (東京高等裁判所 平成27年6月11日判決より)

 あるユーザ企業が、自社の販売管理システム開発をベンダに依頼した。ベンダは約一年掛けて、これを一通り作り上げ、ユーザに対してシステムの説明会を行ったが、その席においてユーザ側からシステムの不具合を指摘された。この不具合に対応するため、ユーザとベンダは協議の上で、追加カスタマイズ契約を締結し、ベンダは作業を継続した。しかし、その作業の完了後、ベンダはユーザに検収を依頼したがユーザはこれに応じず、費用の支払いもなされなかった。

 このため、ベンダは費用の支払いを求めて訴訟を提起したが、ユーザは、システムは完成しておらずベンダには債務不履行があるとして、損害賠償を求める反訴を提起した。

 なぜ、ユーザ企業は検収をしなかったのか。判決文で見る限り、やはり不具合の数が多く、また業務の使用に耐えないものであるとユーザ企業側が判断したようです。この不具合の存在自体は裁判でも認められているところですので「こんな不出来なシステムに金なんか払えない」と考えるユーザの気持ちもわかります。

 一方でベンダ側から見るとどうでしょうか。少なくとも、自分達は追加カスタマイズも含めて作業を完了したと思っています。多少の不具合はあるかもしれないが、作業が終わった以上は代金を払ってもらわないと会社の資金繰りにも影響してしまうところです。しかし、代金を払うかどうかが決まる検収自体を実施してくれないことにはどうしようもありません。せめて検収は予定通りにやってもらって、不具合があるならあるで指摘をしてもらわないことには、対応のしようもないというところでしょう。ユーザからしてみれば、見るからに検収に耐えるようなシステムではない。ベンダからすれば、文句があるなら検収を行った上で不具合として指摘してほしい。そんな争いになってしまったわけです。

次のページ
明らかに使えない。それでも検収すべきか。

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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