今回も、そんなITの不具合についてのお話です。特に注目したのは "契約解除"と"検収"の関係です。システムの開発をベンダに依頼したがテスト段階から不具合が多く、検収前に契約を一方的に解除してしまった。そんな話は本当によくあることです。気を付けなければならないのは、迷惑を受けたはずのユーザ側が協力義務違反、つまり違法行為とされることがあるのです。今回は、そうした判例についてお話ししたいと思います。
実は今回取り上げる判例は、別の観点ですでに取り上げていますが、(https://enterprisezine.jp/article/detail/10622?p=3) ユーザの協力義務に関しても重要な示唆をくれる判決ですので、改めて取り上げてみます。
不具合のあるシステムを作ったベンダと検収をしなかったユーザ
(東京高等裁判所 平成27年6月11日判決より)
あるユーザ企業が、自社の販売管理システム開発をベンダに依頼した。ベンダは約一年掛けて、これを一通り作り上げ、ユーザに対してシステムの説明会を行ったが、その席においてユーザ側からシステムの不具合を指摘された。この不具合に対応するため、ユーザとベンダは協議の上で、追加カスタマイズ契約を締結し、ベンダは作業を継続した。しかし、その作業の完了後、ベンダはユーザに検収を依頼したがユーザはこれに応じず、費用の支払いもなされなかった。
このため、ベンダは費用の支払いを求めて訴訟を提起したが、ユーザは、システムは完成しておらずベンダには債務不履行があるとして、損害賠償を求める反訴を提起した。
なぜ、ユーザ企業は検収をしなかったのか。判決文で見る限り、やはり不具合の数が多く、また業務の使用に耐えないものであるとユーザ企業側が判断したようです。この不具合の存在自体は裁判でも認められているところですので「こんな不出来なシステムに金なんか払えない」と考えるユーザの気持ちもわかります。
一方でベンダ側から見るとどうでしょうか。少なくとも、自分達は追加カスタマイズも含めて作業を完了したと思っています。多少の不具合はあるかもしれないが、作業が終わった以上は代金を払ってもらわないと会社の資金繰りにも影響してしまうところです。しかし、代金を払うかどうかが決まる検収自体を実施してくれないことにはどうしようもありません。せめて検収は予定通りにやってもらって、不具合があるならあるで指摘をしてもらわないことには、対応のしようもないというところでしょう。ユーザからしてみれば、見るからに検収に耐えるようなシステムではない。ベンダからすれば、文句があるなら検収を行った上で不具合として指摘してほしい。そんな争いになってしまったわけです。