システム全体が俯瞰できることこそ運用管理の面白さ
企業システムを維持していく為に必要な業務として、企業ITが生まれた当初から存在する運用管理業務。かつては、開発者そのものが運用も行っていた。つまり運用と開発の境目は非常に曖昧だったという。2000年以降、IT寄りの考え方の広まりとともに、金融業界を中心に本番と開発の環境分離が進んだ。2000年代前半に成立したITシステムの内部統制強化をうたった米国のSarbanes Oxley法もこれを後押しした。その結果、本番運用を行う組織は、開発とは違う組織を別建てしなければならずその要員以外は本番環境に触れることができないようにするという要求がされるようになってきた。監査法人の内部統制の監査を受けている組織は、どこの組織も実現している。
情報システム部門の中での運用組織は、「同じことを毎日繰り返しているだけ」「業務に必要とされるスキルも初歩的な初級レベルものが多い」という誤解を経営層やビジネス部門からされがちだという。このような誤解から業務の効率化を求められ、人員削減の矢面に立たされることも少なくない。「企業にとって必要だが、これまで重要視されてきていない領域です。だが、本当は継続性と新規性が併存し、ビジネスそのものを支える重要な業務です」と中氏は話す。
運用組織の魅力と独自性を中氏は「広い視野でシステムを俯瞰できるスキルが身につくこと」と説く。「運用組織は稼働後のシステムの推移や経過を見守ることができる。各システムのサービスレベルを定期的にチェックするという管理業務は、サービス自体のKPIを理解した上で達成度を測りサービスレポートをまとめる必要があります。つまり、システムの全体像、システムのボリュームを把握した上で、KPIに対する理解も運用管理者には求められています。システムトラブルが起きた時は周囲のシステムへの影響をインシデント管理、構成管理から把握することもできます」。開発側が1つのシステム開発構築に閉じがちなのに対し、複数システムが必ず影響し合い、より広い視野で企業システムの全体像を把握できるようになるという。
さらに、運用管理はシステムのライフサイクルの中で、一番長い期間を占める。開発が1年で終わったシステムも、その後5年程度運用。長いものでは10年、15年運用するものもある。中氏自身もコンサルティング業務に従事するうえで、業務最適化への提案のためにはシステム全体を俯瞰する必要があると考え、運用管理業務への理解を深めるようになったという。そして現在は自らの主たる領域に据える。
このような継続性のある業務に加えて、運用組織には新規性も要求される。確かに、運用組織が取り扱う基幹系システムは、性質として安定性が強く要求される。そのため技術変革には慎重だ。例えば企業システムの基幹系でここ10~20年、一部のシステムがSAPやOracleのEBSなどのERPのパッケージで置き換わったものの、技術自体に大きな変化はしていない。しかし、ここ数年でクラウドやAIなど新しい技術が台頭し、運用組織も以前に増して新規性が要求される業務が増加してきた。最近では従来の運用スキルを持った人だけでは対応が難しくなり、新しい人材を補充したり運用メンバーの教育をしたりする必要が出てきた。それによって、経営層などの意識も少しずつ変わってきているという。