業務品質を低下させずにSIAM移行を行うには
第1回~第3回の記事の中でSIAMモデルやガバナンスの構造要素、コラボレーションの考え方などについてご説明しました。「SIAMとは何か?」についてはすでにご理解いただけたのではないかと思います。次のステップは、実際に「SIAMをどう適用するのか?」について考えてみたいと思います。もし皆さんの所属する企業が、設立間もないスタートアップのような企業であれば、ゼロからSIAMに従って計画・実行すれば良いため適用アプローチはそれほど複雑ではありません。しかしながら実際にはそういうケースは少なく、すでにサービスを提供している既存環境がある中で、業務の品質を極力低下させない(サービスを止めない)かたちでSIAMモデルへの移行方法を検討する必要があります。
SIAMでは移行を1つのプロジェクトとしてとらえ、これを「SIAM移行プロジェクト」と呼んでいます。プロジェクト管理の知識体系としては、デファクトスタンダードであるPMBOKがありますが、SIAMではより実践的に活用できるように移行アプローチを「SIAMロードマップ」として体系化しています。SIAMモデルへ組織を移行するために検討すべき要素は多岐にわたるため、ゼロから個人レベルで考えるのは難易度が高くなりますが、体系化されたSIAMロードマップを活用すれば高品質な移行を効率的に実施することができます。それでは具体的な内容をみていきましょう。
移行を成功させるためのSIAMロードマップ
SIAMロードマップは全部で4つのステージがあります。「ディスカバリ&戦略」「計画&構築」「実装」「運営・改善」です。次回以降でそれぞれのステージの具体的な内容を説明しますが、今回はまずは概要レベルで全体像をおさえたいと思います。
ディスカバリ&戦略ステージ
ディスカバリ&戦略ステージでは、SIAM移行プロジェクトを立ち上げた上で、SIAMに移行することで組織にとってどのような効果が期待できるのかを戦略目標や最終的な絵姿から現状の外部環境(マーケット)、既存環境および自社の能力(ケイパビリティ)・リソースなどをハイレベルで整理します。SIAMでは以下の9つが活動として定義されており、活動の結果としてビジネスケース(アウトライン)を作成します。
- SIAMプロジェクトの確立
- 戦略的目標の定義
- ガバナンス要件とハイレベルなガバナンスフレームワークの定義
- 役割と責任の原則および方針の定義
- 既存サービスとソーシング環境のマッピング
- 組織の現在の成熟度とケイパビリティのアセスメント
- マーケットプレイスの把握
- SIAM戦略とアウトラインモデルの定義
- ビジネスケースのアウトラインの作成
計画&構築ステージ
計画&構築ステージでは、前ステージで作成したビジネスケース(アウトライン)をもとに、SIAMモデルの設計の詳細化・移行計画の作成を実施します。また、その内容をもとにビジネスケースを精緻化し経営層から移行プロジェクト実行の承認を得ます。承認が得られたらSIおよびSPをどのパートナー(もしくは自社)が担うのか役割分担を決定します。実際にはケースバイケースですが、SIAMではSIを早期に選定し計画段階から関与させることを推奨しています。
SIAMではこれに加えて、組織的なチェンジマネジメントを開始することをこのステージの活動として定義しています。SIAMへの移行は単にSIやSPを定義して切り替えていくという話ではなく、重大なビジネスモデルの変化であり顧客組織も含めた広範囲な利害関係者へ影響を及ぼします。よって、既存サービスを保護しながら既存組織へのインパクトを最小化するための取り組みとして、本活動が成功のための必要不可欠の活動として定義されています。本ステージで定義されている活動は以下の7つです。
- 詳細なSIAMモデルの設計
- 完全なビジネスケースの承認
- 組織的なチェンジマネジメントの開始
- SIの任命
- SPの任命
- SPとサービスの廃止計画
- ステージのレビューと実装の承認