
現在、AIやIoT、ビッグデータといった先進技術の分野で海外の巨大IT企業に遅れをとっている日本企業だが、パナソニックはこれまで培ってきたモノ作り技術を生かすことで「勝ちにいく」という。その真意や同社の取り組みについて、新規事業開発担当 上席主幹 兼 ビジネスイノベーション本部 事業開発センター所長の島田伊三男氏に話を聞いた。
“シーズ”ではなく“ニーズ”を起点にした事業の創出を目指す
パナソニック株式会社(以下、パナソニック)といえば、一般消費者に身近な家電製品やデジタル機器を開発する「モノ作り企業」のイメージが強いが、現在同社では急ピッチで新たなビジネスモデルの構築を進めている。その一環として、2017年4月に本社部門に「ビジネスイノベーション本部」と呼ばれる新たな組織を設立し、副本部長にSAPジャパンでバイスプレジデントを務めていた馬場渉氏(現、同本部 本部長)を招へいしたことで話題を呼んだ。
それまでパナソニックの既存事業における研究開発は、モノ作りを担う各カンパニーや事業部ごとに個別に進めていたが、ビジネスイノベーション本部はこれらとは少し異なる役割を担う。同社 新規事業開発担当 上席主幹 兼 ビジネスイノベーション本部 事業開発センター 所長 島田伊三男氏は、次のように説明する。
「パナソニックにおける研究開発は、これまでどちらかというと“モノ”中心の発想で行われてきましたが、これからはお客様や社会全般の課題やニーズを起点にした研究開発や事業創出に取り組んでいかないと、取り残されてしまいます。中でもAIやIoT、ビッグデータといった先進技術を使った新規事業の創出が急務だと考えています」

そのために、これまで社内で研究開発を進めてきた既存技術、つまり“シーズ”にとらわれることなく、顧客や社会の“ニーズ”をベースに、AIやIoT、ビッグデータなどを使った新たな事業の開発を目指すのがビジネスイノベーション本部のミッションだという。そして2018年4月、同本部の配下に新設されたのが、島田氏が率いる「事業開発センター」だ。
実はパナソニックでは、既にカンパニーごとの「事業部」とは別に「事業開発センター」や事業開発センターの機能を含む「イノベーションセンター」という名の組織が設けられている。この組織こそがまさに、「シーズではなくニーズから事業を創出する」パナソニックの新たな取り組みのけん引役を担っている。
「弊社は事業領域ごとに4つのカンパニーに分かれていますが、それぞれの各事業開発センターやイノベーションセンターは、所属するカンパニーが手掛ける製品や技術領域にとらわれることなく、『お客さまの困りごとを解決するために何が必要か』という発想で事業を検討し、カンパニーの枠を飛び越えた活動をしています」
こうして各カンパニーでは既に活発に活動していた事業開発センターだが、本社の研究開発部門にだけは長らく存在していなかった。そこでAIやIoT、ビッグデータといった先進的な技術を使ったイノベーション志向の事業を創出する組織として、ビジネスイノベーション本部の配下に事業開発センターが新設された。
「AIをはじめとする基礎技術の研究開発は、各事業部門や、ビジネスイノベーション本部配下のAIソリューションセンターなどで行っています。そうした研究開発部門が『0から1』の技術を産み出し、パナソニックの内部にある技術、外部にある技術をクロスバリューさせながら、お客様ニーズを満たす新しいサービスを中心とした事業として『1から100にスケールさせる』ことが私たち事業開発センターのミッションです」(島田氏)
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吉村 哲樹(ヨシムラ テツキ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。その後、外資系ソフトウェアベンダーでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。
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