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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

パッケージカスタマイズの金額交渉が決裂。ソフトの費用は払うべき?

 契約前作業を巡るトラブルが多いので、前回に続いてこの問題を取り上げたいと思います。今回は、ユーザ側に発注する意思はあったものの、作業着手後の費用交渉が決裂してプロジェクトが中断してしまった例です。こういう例を聞くと、やはり契約前作業は危険であると感じるのですが、私が講演や研修などで訪れる企業などで話を聞くと、そうした危険を認知しながらも契約前に先行着手する例がまだまだ多いようですし、そうしたことが問題になって裁判に発展してしまうケースもなかなかなくなりません。

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判例に学ぶIT導入改善講座

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開催概要

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  •  日  時:2018年11月26日(月)18:00~21:00(受付開始/17:30~)
  •  会  場:ベルサール九段
  •  参 加 料:9,000円(税抜)※書籍代別
  •  定  員:120名
  •  お問合せ:EnterpriseZine Academy 運営事務局(E-mail:eza_info@shoeisha.co.jp)
  •  詳細、お申し込みはこちらからどうぞ

 今回も、この契約前作業について考えてみたいと思います。ただ、この事件はこれまでご紹介した契約前作業の問題と少し異なり、パッケージソフトウェアをカスタマイズするシステム開発を行う場合、カスタマイズ費用が問題となってプロジェクトが中止になり、そのパッケージソフトウェアの費用は払うべきか、という点が問題になっています。

中止されたプロジェクトの契約前作業費用を巡る裁判の例

 (東京地方裁判所 平成21年9月4日判決)

 あるユーザ企業が、社内システム開発の見積もりをベンダに依頼した。開発にはパッケージソフトウェアを用いることがユーザから要望され、ベンダは、パッケージのライセンス料2900万円,そのカスタマイズ費用 3155万円、および要件定義等の費用を合わせて、総額約8200万円の見積書が提示された。

 これに対してユーザ企業は、パッケージのライセンス料、要件定義等に関する発注書をベンダに送付したが、カスタマイズについては、その時点で未発注だった。

 ベンダは注文書に従って、パッケージソフトウェアのライセンスをユーザに供与し、合わせて要件定義を行った。ところが要件定義を行ったところ、カスタマイズ量が当初の想定を大きく超えたため、ベンダはカスタマイズ費用を約7000万円とする再見積もりを提示したが、当初の想定を大きく超える金額に、ユーザー企業はプロジェクトの中止を通告し、ベンダはすでに供与したライセンス費用と実施した要件定義の費用、合わせて2400万円の支払いを求めた。しかし、ユーザー企業は、当初提示された8200万円の見積もりを受け取ったことにより、システム全体の契約は成立しており、それが完成していない以上、支払いの義務はないと、これを拒んだため、裁判となった。

結果的に使うことのないパッケージソフトウェアでも費用は払うべきか?

 この事件の問題は、契約がパッケージライセンス費用とカスタマイズ費用および要件定義等という別個のものであるか、「システム開発契約」という1本であるのかという点にあるわけですが、もう少し単純に考えると、システム開発が中止になったとき、それでもパッケージソフトウェアの費用は払うべきなのかという問題とも言えます。パッケージ費用はすでにきちんとして契約して支払ったものではあるのですが、そのカスタマイズが行われなければ買った意味がありません。しかも、プロジェクト中断の席には、カスタマイズ費用交渉の決裂というわけですから、ユーザとベンダのどちらに責任があるかというと微妙なところです。

 ユーザ企業は、結果的にシステムを開発できないならパッケージ費用も要件定義も無駄になるのだからお金は払えないといい、ベンダの方はそれらを払えと言う。結局は、全体の見積もりに合意し、契約を結ばないままライセンスを供与したり、要件定義作業を行ったことが原因となっています。

 皆さんは、この裁判についてどのようにお考えでしょう。そもそも契約がないのだから、ベンダにお金を払ういわれはないのでしょうか? それとも、ライセンス費用は確かに発生しているし、要件定義書だって確かに作ったのだから費用は払うものなのでしょうか。

 判決の続きをみてみましょう。まず、裁判所は、双方ともに相当規模であり、取引金額も大きいのだから本来なら契約書面を作成するのが自然だと、少し説教じみた前置きをしたあと、次のように続けました。

 (東京地方裁判所 平成21年9月4日判決)

 (本件当初の見積書は) 「Fit&Gap及び要件定義にて要件の範囲が広がる場合には,追加工数が発生する場合がございます。」「・・を想定して見積もりしております。」などの記載があることから,概算の見積もりを提示するもので,未確定な要素を含んでいる。(開発部分について)発注書のひな形の送付に関するやり取りがあり,別途発注書を作成することが想定されていた。

 裁判所は、このように述べてユーザ企業側にライセンス費用と要件定義費用の支払いを命じました。確かに、ライセンス費用は実際にシステムが稼働しなくても、開発の為に使っていれば払わなければならないのかもしれません。また、要件定義にしても、実際にベンダのメンバが手を動かして作っている以上、対価は発生するでしょう。しかし、ユーザ企業にしてみれば、どちらの費用も、システムが完成すればこそ有効な費用であり、お金をドブに捨てたようなものです。しかも、プロジェクト中段の原因は、ベンダ側が当初見積もりの2倍以上の金額を提示してきたことによるわけですから、なんとも釈然としないと感じる方もいるでしょう。

次のページ
ユーザは追加見積もりの可能性に備えて何をしておくべきか

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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