IBM Think 2019では恒例の、IBM Researchによる今後の5年に実現しているであろう新しい5つの技術の話をする「5 in 5」セッションが行われた。今年のテーマは「食べ物」について。大規模な干ばつなどが発生しており、農作物の収穫には異常気象が大きな影響を与えている。増加する人口に対し限られた農地でどうやって食糧を供給するのか。農作物の収穫率を高め、食べ物の無駄をなくす必要もある。その際には食品輸送の合理化も考えなければならない。生み出されている食べ物の45%が無駄になっている現実もあり、さらには食品汚染なども考えなければならない。こういった食べ物に関する課題を、IBMでは科学の力で解決しようとしている。
IBM Researchが取り組む食にまつわるさまざまな問題を解決するための最新技術

ジュリエッタ・ムタヒ氏
まずは、ブロックチェーン技術の活用の話から始まった。ブロックチェーン技術を使えば、食品に関する情報を安全に透明性を持って記録できる。IBM Research アフリカのリサーチャーでソフトウェアエンジニアであるジュリエッタ・ムタヒ氏は、ブロックチェーンを使うことで農業のバリューチェーンを変革できると言う。アフリカで行われている「Hello Tractor」というプロジェクトでは、機械学習とIoTを利用しトラクターの利用状況をデジタル化、情報をブロックチェーンで管理することで作物の管理情報を共有している。このデータとWatsonを結びつけることで、リアルタイムの意思決定支援も可能にする。
名刺サイズのICカードに、作物を生産するためのさまざまな情報が入っている。農場のプロフィールはもちろん、作物を作った畑の土壌情報なども格納されている。それらの情報はブロックチェーンに記録され、銀行が農家にローンの貸し付けをするような際にも利用される。かつては信用する情報がなく融資がなかなか受けられない農家も、このブロックチェーンの情報のおかげで速やかに融資を受けられるようになるのだ。
もう1つの取り組みは、ブロックチェーンを使って食品の無駄を防ぐ取り組みだ。生み出された食品の3分の1程が毎日無駄になっている。流通の過程で、あるいは家庭に届いた後でも食品が消費されるのではなく廃棄されている。たとえばオレンジは、毎年1,500億個もが無駄になっている、と言うのはIBM Research インドのVPでCTOのスリアム・ラギャバン氏だ。食品だけでなく燃料や土地、水も無駄になっていると指摘する。
特に食品のサプライチェーンは、かなり複雑でカオス状態にある。そのため送るべき量が間違っていたり、間違った場所に運んでいたり。結果、食品の鮮度が下がり、消費者の手に届かず無駄になることも多い。この課題に対しAIとブロックチェーン、IoTを組み合わせて無駄をなくすとラギャバン氏。IoTで生産する農地から販売するスーパーマーケットまでをトラッキングする。さらに販売の情報から食品の消費パターンもリアルタイムに判断できる。これらで、どれくらい何を生産すべきかが分かり、さらに農地における作物の成長状態を見て、何をどれくらいパッキングし送り出せばいいかの判断も可能になる。
たとえば作物の鮮度に応じ、新しいものは遠くまで運びそうでないものはなるべく近いところに運ぶようにすれば、消費者の手元に届くまでに鮮度が下がり食品を廃棄することを防げる。すでにIBMではFood Trustという取り組みを始めており、ブロックチェーンを活用しセキュアかつリアルタイムに食品の情報共有できるようにしている。このブロックチェーンのデータをAIに取り込むことで、5年後には食品のサプライチェーンをインテリジェンス化し、高度な判断で食品の無駄をなくすことができるわけだ。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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