RPAの全社化を阻む「野良ロボット」など8つの障壁
今やバズワード的にも注目されるようになった「RPA」。労働人口の減少に伴う人手不足や長時間労働の解決をめざした「働き方改革」の施策の目玉の1つであり、単純ミスの削減や作業記録のエビデンス化などからガバナンス施策として見る人もいる。しかし、日立ソリューションズの松本匡孝氏は「RPAに対する期待がやや大きすぎる印象があります。ツールを入れればすぐに大きな効果が得られると考えるのは幻想」と語る。
一般にRPAの適用範囲は「デスクワーカーの定型・反復業務」と言われている。しかし、定型・反復業務の中でも量が多いものはIT化されており、ほぼ効率化されていることが多い。つまり、RPAが置き換えられる部分は、粒度が小さくIT投資に見合わないとされて積み残されてきた部分であり、データ入力や抽出、Webアプリの操作、メール送信などのユーザインタフェース層の作業ということになる。
こうした細かな業務に対し、RPAはシナリオ作成と呼ばれる簡便なGUI操作でノンプログラマーでも自由に作成できるため、現場で対応できるのが強みと言われている。ITシステム化するまでもなかった業務でもRPAで効率化できれば、「チリも積もれば山」となって生産性向上が期待できる。逆をいえば、1つや2つの業務の置き換えでは大した効果は得られず、RPAでまとまった効果を生み出すには全社で取り組むことが必要というわけだ。
松本氏は「成功事例とされるケースは一業務への導入に限定されたものばかり。十分な成果を出している企業はまず見当たりません。多くの業務に導入して全社化しようにも、想定される問題が多く、十分な解決策が見いだせていないのです」と語る。
その想定される問題とは何か。日立ソリューションズでは、RPAの導入事例を分析し、全社導入で直面するであろう課題として、以下の8つ項目にまとめている。松本氏に解説いただいた。
1.野良ロボット/闇ロボットが発生する
「IT部門を介さず現場で導入ができるため、各人でどんどんロボットを開発してしまいます。その結果、異動や退社で管理者が不在となった『野良ロボット』やコンプライアンスを無視した『闇ロボット』などを生み出してしまい、システム負荷やセキュリティ面などに問題が生じる恐れがあります」
2.ロボットの開発は難しい
「簡単に開発できると言われていますが、案外そうとも言えません。Excelのマクロ開発程度には知識が必要です。また、適用には業務フローの整理も必要となり、業務知識と開発スキルの両面が必要となります。その両方を持つ人材の確保または連携はなかなか難しいものがあります」
3.期待したほど活性化しない
「ロボットに自分たちの仕事が奪われるという不安が根底にあり、抵抗勢力となっているようです。他にも工数の少ない業務が多い、これまでやってきた業務手順を変更したくないなどの理由から、積極的な導入・活用が進まないということが生じています」
4.自動化できない業務が多い
「定型業務であっても業務フローにルールと手順が決められていないことは少なくありません。または、リモートデスクトップやVDI(デスクトップ仮想化)など、システムや利用環境にRPA製品が対応していないことも多くあります」
5.ROIを算出できない
「そもそもその気がない場合はともかく、算出しようにもRPAを一元的管理する機能がなかったり、部門ごと異なるRPAが導入されていたりして、全社のロボット稼働状況の管理は難易度が高めです」
6.全社で管理・運用するノウハウがない
「RPAの管理・運用を行う専任組織(CoE)の設置、人材の育成や運用ノウハウの蓄積、管理システムの構築が必要です。また、全社を対象に自動化対象業務の抽出と自動化優先順位の決定を行い、運用ルールの制定やロボット開発ガイドライン、標準テンプレート等の作成などが必要となります」
7.IT部門のロボット開発の負荷が大きい
「現場での開発・導入が可能といわれながら、実際にはIT部門に依頼されることが多いようです。となると、業務理解のために現場へのヒアリングが必要となりますが、忙しいIT部門の時間確保が難しく、業務理解にも時間がかかります」
8.セキュリティに対する懸念
「社内システムはセキュリティ対策していても、RPAはそこまで厳密に対応できておらず、誤処理や不正アクセス、操作権限の設定ミスなどによる情報漏えいの恐れがあります。定期的な内部監査やセキュリティ対策が必要です」