日本のRPA活用ではロボットに置き換えるのではなく業務理解が必要に
日本の現場仕事の質は、海外よりも高いと言われている。海外に比べて日本は、人の手で行う作業が多岐にわたる。日本ではこれまで、人が行う現場作業に対し独自のITシステムを開発し効率化してきた。とはいえ「システム開発には、手間もコストもかかります。一度構築すると、改修するのも難しいものがあります」と言うのは、NTTドコモ 法人ビジネス戦略部 主査の中村公宜氏だ。
海外の現場作業は、人に依存することが少なくマニュアル化されているものも多く、RPA化がしやすい。一方で、日本の現場作業は人に判断を委ねるものが多く、そこにRPAを適用しようとすると、ファジー(あいまい)な人の判断をどうやってデジタル化するかが鍵となる。そのため「日本のRPAの導入では、本質的な業務の意義などが理解できていないとうまくいかないことがあります」と、NTTドコモ 法人ビジネス戦略部 課長の富永泰治氏も指摘する。
そう考えるとRPAは多くのITシステムのように、ベンダーに丸投げではうまくいかない。ユーザー側の現場担当者自身がかなり入り込まないと、RPAを継続的に活用し価値を出すのが難しくなる。しかしながらビジネス現場の担当者には、ITシステムに対する大きな抵抗感がある。つまりはRPAの仕組みにプログラミング的な要素などが見えると、現場はなかなか触ろうとしない。そういったところが見えずに自分たちでも「これなら使える」という仕組みが出てきたことが、日本でRPAの採用が大きく進んだ理由でもある。
ロボットで人手不足などの顧客の業務改善のきっかけにする
日本でRPAへの関心が高いもう1つの理由が、圧倒的な人手不足だ。「ここ最近特に、地方からのRPAに対する問い合わせが増えています」と中村氏。各地の自治体では、人口が減少しているところも多い。そういった地域では人材確保に苦労している。ドコモの顧客であるJA下関がある山口県なども、人材の確保が難しい職場が多いという。
そんな環境にあるJA下関では、農家からの受発注業務の処理をRPAで自動化し人材不足に対応した。JA下関には、繁忙期に農薬や肥料などの注文書が数千から数万枚も届いていた。これを従来は手作業でシステムに入力しており、多大な時間を要していた。この業務をOCRとRPAを組み合わせ自動化し、80%もの時間削減に成功したのだ。
届く注文書の数は、季節によって大きく変動する。ただでさえ人手不足の中、繁忙期だけ人を雇うことはさらに難しい。一方RPAのロボットであれば、繁忙期だけ増やすことも容易だ。JA下関で利用しているのは、NTTグループの技術で開発された、国産のRPAツールである「WinActor」だ。採用のポイントは、ITリテラシーの高くない業務現場の人たちでも簡単に使えたことだと中村氏は言う。
とはいえ、手書き伝票の入力をRPAで自動化するのは、PCで行う業務の改革だ。ドコモでは本来、通信回線やタブレットの活用など、PCの外にある業務改革を中心に提案してきた。しかしタブレットを農家などにいきなり持って行っても、その効果をなかなか理解してもらえない。そうであれば、まずは現場のPC業務などで本当に困っていることの改善提案を行う。そこで業務現場の課題をしっかりと見極め、次のステップでタブレットなどを活用する、本来ドコモが得意とする領域の改革を提案する。この場合の最初のステップとして現場業務の改革を、まずはRPAで提案しているのだ。