JR東日本のアプリ開発は「デザイン思考☓アジャイル」
東日本旅客鉄道の松本氏の講演。デザイン思考とリーンXPを活用し「JR東日本アプリ」を開発した事例が紹介された。
開発においては、Pivotalの開発拠点「Pivotal Lab(ピボタルラボ)」を活用すると共に、デザインシンキングのコンサルティングファーム IDEOとも共同。
従来のJRアプリにくらべ、はるかにデザイン性を重視。アプリは今後、出発地から目的地までシームレスなルート案内を目指し、MaaSの主要な役割を果たしていくものとなる。
IDEOのデザイン思考とPivotalのアジャイル開発の知見を総合することで、迅速かつ先進的な開発が実現できた。
「とにかくユーザーの声を聴く、会社の声を聴く、コンテンツホルダーの声を聴くという姿勢で、地道に進めていく」と松本氏は語る。
DXのための開発ベストプラクティス、「AppTX」
続いて、Pivotalジャパンの正井社長が、同社のベストプラクティス「AppTX」の以下の3つの段階を紹介した。
「リプラットフォーミング」── 限定的な変更で移行可能な一部の既存アプリをクラウドネイティブ基盤に移行させる。
「モダナイゼーション」──より大きく、より複雑なアプリをモダナイズ移行し、性能やセキュリティなどの非機能要件も取り込み、12ファクターやTDD、CI/CDなどクラウドネイティブ基盤に最適化したリファクタリングを実施する。
「組織のトランスフォーメーション」──組織横断的なチームが継続的なアプリ更新を先進プラクティスに基づいて推進できるように改革する。
こうした手法を用い、Pivotal Cloud Foundry上で新規アプリ開発や既存アプリの移行のスキルを習得するための支援サービス「Platform Acceleration Lab」も展開している。
これからのシステムに求められるプラットフォームの要件として、予測可能型業務と探索型業務を支える基盤、安定稼働と俊敏性の両立、オンプレミスとクラウドの可搬性、環境非依存な統合運用をあげる。
“cf push”でハッピーになれる──ブリヂストン小林氏
タイヤメーカ世界最大手のメーカーの情報子会社、ブリヂストンソフトウェアの小林徹氏。同社の売上でタイヤ事業は83%、多角化事業が17%となるが、それらに加え商品の組み合わせやメンテナンスなどのサービス、IT/センシング技術と組み合わせたソリューション事業を進めてきた。その取組みの1つとして、PivotalのDevOps環境「Pivotal Cloud Foundry」(以下、PCF)を採用した。
PCFを採用したのは「メソッドと基盤の両方があったから」だと小林氏。CI/CD(継続的インテグレーションと継続的デリバリー)が容易であることが決め手だったと語る。なかでも、従来の.NETで開発された既存環境を自動化し、オペレーション(Ops)作業も軽減するためには、PCFの採用が必須だったという。
PCFについては「どんな言語でも “cf push”でデプロイ出来る」とそのデプロイの容易性を強調した。
富士通は、Pivotalとのコラボでアジャイルのための開発ラボ
富士通の中村記章氏。富士通は、Pivotal Labで知識やノウハウを習得した人材を、「富士通アジャイルラボ」に集結させ、お客様への開発支援やコーチングのサービスを強化している。これまでのSIerとしての知見に加えて、「リーンスタートアップとアジャイル開発」をスキル面、マインド面の両方で吸収し、体質変革を目指している。Pivotalとのコラボレーションからは以下のような成果が生まれた。
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技術的負荷がなくユーザー価値がある機能のみのプロダクト(MVP)を開発できた
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全てアウトサイドインで書かれたテストコード:ユーザーストーリーをベースにテストコードが記載され、そこに設計が詰まっているため、日々すべての機能に対して自動テストを行うことができる。
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開発の中でのリファクタリングの実施により、クリーンなコードが保たれている
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開発者の思い込みではない仮説の検証結果によって、ユーザーからのインサイトが蓄積
テプコシステムズ 冨倉氏が語る「Utility 3.0」時代
続いて、テプコシステムズの冨倉敏司氏が登壇。昨年持株会社化した東京電力の情報子会社として、東京電力グループ全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進している。
これまで、固いイメージのあった電力・エネルギー業界だが、冨倉氏によると現在、激変しているという。その変化を冨倉氏は、「Utility 1.0:垂直統合型」(電気事業の誕生と急激な発展)、「Utility 2.0:送配電事業の分離(発電・小売の競争)、「Utility 3.0:他産業・事業との融合(ゲームチェンジ)」の3段階に整理する。
変化を牽引する要因は、「5つのD」──Deregulation(規制緩和)、De-Carbonization(脱炭素化)、Decentralization(非中央集権化)、Depopulation(人口減少)、Digitalization(デジタル化)、となる。
こうした変革への対応をおこなうための拠点として、オープンイノベーション拠点「tepsysy labs」を創設。PCFを活用し、「テプコスナップ」などのスマートフォンアプリ開発をおこなった。「テプコスナップ」とは、社員や一般の市民が電柱の異常などをみけ、写真や位置情報を送ることで迅速な復旧がおこなえるというもの。
PCFやプラクティスの導入効果としては、コストメリットが2.1倍、プロセス時間の削減効果が35%、リリース後運用付加改善効果として90%、開発生産性が3倍と、めざましいものとなった。
ヤフーが実践するモダナイゼーションの条件
「Yahoo! JAPAN」は、月間約745億ページビューのアクセスを誇る巨大なインターネットサービス。膨大な数のサービスを安定的に稼働させるための、性能やスケーラビリティ、セキュリティなどの確保が必要となる。現在提供されているサービスは100を超える。それを維持するためのエンジニアは約2800人。サービス開発エンジニアと、プラットフォーム開発エンジニアなどが、それぞれの領域で注力している。
ヤフーの佐野雄一郎氏は、なぜモダナイゼーションすることになったかについて語る。オークションやEC、物販などさまざまな領域で、強力な競合が登場してきていることが背景にあるのだという。
「モダナイゼーションを行い、サービス開発の開発競争力を向上させないとジリ貧になる」(佐野氏)
日本のインターネットサービスの草分けともいえるヤフーだが、その分、言語や開発環境はレガシーなものが存続し、古くからのアーキテクチャーを継承している。こうしたレガシーを抱えていることは、サービスの一貫性を保証する半面、新たなサービスへの障害にもなる。そのため、常に切り替えられる柔軟性を持ち、「開発→リリース→フィードバック」のサイクルを高速化させることが、これからの課題となる。
激烈な競争環境を生き抜くための迅速な新規サービスの投入がなによりも重要となる。そのためにサービス開発エンジニアはサービスに集中させることが必要だ。エンジニアにとってインフラを意識しない環境、たとえばIaaSからPaaS/CaaS/FaaSと、より抽象度の高い環境に移行させることの意義は大きいという。
PCFについては、PaaSの領域でPivotal Application Serviceを使用している。2015年のPoCの開始から段階的に導入し、OpenStack、vSphereなどのクラスターを追加、現在では35000インスタンスになり「ライセンスが心配」(笑)とも。
PCFを採用した理由は、海外で多くのベンダーで採用されていること、オンプレミス環境でも使えること、さらに今後の拡張性だという。こうした先進的な開発の実践のため、ヤフーは「8209Labs」(ヤフオクラボズ)というスペースを構築した。PivotalラボのLeanXPの手法、ペアプログラミング、テスト駆動開発などの導入のスピードを上げるために、「100人同時にペアプログラミングできる場所」を設置した。
ヤフーの強みは、こうしたテクノロジーの課題を、経営層が理解していることだという。DXを社内で普及させる戦略として、「経営陣をしっかり握ること、社内スポンサーを持つこと」だとアドバイスを語った。
基調講演の全体を通じて、日本企業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)に向けた開発は、着実に進んでいる様子が紹介された。登壇したのはすべて大企業だが、Pivotalとの協働を通じて、リーン、アジャイルなどのベストプラクティスを取り入れ、企業組織全体のプロセスやカルチャーの変革を目指しているようだった。