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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

想定外の処理にダウンしてしまったクラウド その責任はだれに?

 今回はクラウドに関連するお話です。クラウドは、ITシステムを構築する際のファーストチョイスとなりました。一方でクラウド特有の落とし穴もありますので、ユーザ企業側の担当者は注意しましょう。

広がるクラウドの利用

 昨今は、自社の情報システムへのクラウド利用がすっかり定着しており、私が働いている政府においても、"クラウド・ファースト"という原則が打ち出されています。ITシステムを構築する際には、まずクラウドによる実現を検討し、それができないと判断したら、オンプレミスで構築するという考え方です。

 実際IaaS、PaaS、SaaSどれにおいてもユーザ企業は、システムを一から作る必要はなくなり、さらに、その保守・運用に関する作業やセキュリティへの対応もクラウドベンダに任せておける。しかもそのコストは、多くの場合、自分で丸ごとシステムを持つよりも、低減されることが多いことから、今後もこうしたクラウドの利用は増えていくことでしょう。

 クラウドを利用する場合、少なくともサーバや、その上で動作するOSの安定稼働を保証するのはクラウドベンダです。PaaSなら、使用しているミドルウェアの動作も保証してくれますし、SaaSなら使用しているアプリケーションソフトウェアに不具合があれば、即刻無償で対応する契約でしょう。

 そして、もしも、これらが安定した稼働をしなければ、契約の解除もあり得ます。そこで損害が発生しているなら、賠償を受けることができる可能性もあります。その意味でも、クラウドコンピューティングは、ユーザにとって安心ということもできるわけです。

性能要件を超える処理量が原因で起きた障害の責任

 ところが、クラウドベンダが、こうした安心を提供するのも時と場合によりけり、という事例もあります。今回、ご紹介する判例が、それにあたりますが、ユーザ側が当初言っていた要求(具体的にはデータ処理量)を上回る性能を求められた場合、それでも安定稼働を求めることができるのかという問題です。まずは、事件の概要を見てみましょう。

(東京地方裁判所 平成26年11月5日判決より)

 あるユーザ企業が、クラウドベンダの有するコンピュータ資源を提供する契約を締結した。両者の基本契約における解約条項には、3か月前の解約予告によって解約ができるとしつつも、ベンダの帰責事由がない場合にユーザが中途解約した場合には、契約期間満了までのサービス料金を支払う旨が定められていた。

 ところが、システムを稼働させると、サーバが故障して外部との通信が不可能になるなどの障害が発生した。これについてユーザ企業は、クラウドベンダのサービスが不十分であるとして、契約を2ヵ月後に9解約する旨の通知をした。しかし、クラウドベンダは,この解約は、「クラウドベンダの責によらない解約」であるとして、契約において定められた期間満了までのサービス料金の支払い等を求めた。

 本来なら、3か月前に通知しなければならない解約を2か月で申し出るのは、契約違反だというのが、クラウドベンダ側の言い分です。しかし、ユーザ企業側はサーバが停止してしまったことは、クラウドベンダの落ち度であり、この中途解約条項には縛られないという立場のようです。

 ただ、この問題を杓子定規に考えるなら、そもそもクラウド側には約束を超えた処理量に対応する義務はなく、それが原因でサーバがダウンしたからと言って、それはクラウド側の落ち度ではないとも言えます。

 確かに理屈上はそうかもしれません。しかし一方、現実問題として、ユーザ企業がITを企画して、要件定義を行う段階で、実際の処理量を正しく予測することは困難です。だったら、最初からもっと大きなサーバや太いネットワークを契約しておけば、とも思います。しかし、それでは、どこまで大きなものを準備しておけば良いのか、いくらお金をかけたら安心できるのか分からないという場合も多いでしょう。

 また、仮に約束を超える処理量だったとしても、それによって、サーバが故障してしまうというのは、サービス品質として問題だという考え方もあります。今、世の中にあるクラウドサービスの多くは予定以上にCPUやメモリを使った場合、それでも故障等はさせず、使用率を抑え込んで、サービスを継続するなり、すぐに追加の費用を請求し、資源を拡大するなどして、とにかくユーザの業務が止まらないようにする場合が多いと思います。

 ところが、このケースでは、処理量が多くなったことが原因でサーバが故障し、性能の劣化をもたらしました。それはクラウドベンダとしてあまりに稚拙ではないかというのがユーザ企業の主張です。「契約を超える処理が発生したら、それをそのまま続けてくれとは言わない。しかし、システムを壊さずにうまくソフトランディングさせて、業務への影響を減じるくらいのことは、クラウドベンダとして当然の義務だ」ということでしょう。

 約束以上の処理を押し付けられたら、クラウドベンダ側は、不具合を起こしても仕方ないいのか、それとも、なんらか救済すべきなのか、判決文の続きを見ることにしましょう。

(東京地方裁判所 平成26年11月5日判決より)

 ユーザ企業は、本件解約予告において、本件解約に至った理由として、自身のビジネス拡大により急激に増えているシステム及びデータのトラフィック量とトランザクション量に対応するためであり、上記解約理由は、いずれもクラウドベンダの責めに帰すべき事由によるものとはいえない。

次のページ
性能予測はユーザ企業自身の責任

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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