セールスフォースが対象にしている企業は、日本でも数万名の大企業から数名の小規模事業者まで幅広い。とりわけ最近では中小企業支援に力を入れている。この市場に長年取り組んできたのが、同社の専務執行役員 コマーシャル営業の千葉弘崇氏だ。
顧客には社員が対応すること
「セールスフォースの営業の基本は、お客様のところに“社員”が行くということです」と千葉氏はきっぱりと語る。
社員が顧客の所に行く ── あたり前のようであるが、エンタープライズITのベンダーでこれを徹底している企業はそう多くはない。とりわけ外資系の場合は、社員が最初は訪問せず、販売代理店やパートナー、SIベンダーの営業が行くことが一般的だ。
「セールスフォースのテクノロジーを一番よく知っている人間である社員が、お客様に出向き対話をすることが基本。まず話を聞くことからはじめます」
代理店、パートナーからの引き合いについても、ほぼすべてに社員が同行する。その場合も、自社のテクノロジーや製品の話から入るのではなく、顧客の課題について徹底的にヒアリングをして対話をする。千葉氏はこれを、「お客様のチャレンジを知る」ことだと述べ、マーク・ベニオフがセールスフォースを創立して以来の営業の基本だと言う。
また最近の新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言発令後は、社内利用のSalesforceを活用し在宅勤務に移行し、顧客とはリモートでのミーティングへ切り替えて対面と変わらない営業活動を実現している。
顧客のチャレンジを支援すること
「セールスフォースの新規案件の掘り起こしについては、プル型とプッシュ型の2つのアプローチがある」と千葉氏。中小企業の場合は、プル型が基本で、顧客からの問い合わせが第一のステップとなる。自社Webサイトをはじめオンラインメディアやデジタルの広告からの反応、オフラインでのマーケティングイベント、TVや雑誌媒体の広告などのマーケティング活動に対してフィードバックを得たところから商談をスタートさせる。一方、大企業の場合はプッシュ型となり、営業の側から狙いを定めて訪問し、商談につなげていく。
オンラインとオフラインのマーケティングを起点にリード(見込み客)が作られ、インサイドセールスが商談機会を創出し、営業(フィールドセールス)が訪問し、商談成立後はカスタマーサクセスのチームがフォローする ── この一連のプロセスをセールスフォースは、「THE MODEL(ザ・モデル)」という名前でフレームワーク化しており、今ではIT業界の中ではよく知られるようになった。
もうひとつの特長は、主要都市圏の事業所に地方を加えた拠点から、日本全国に営業が足を運ぶことだ。国内では、東京・大阪・名古屋・福岡などの大都市にある拠点の他、中国地方の商圏がある広島に加え、南紀白浜にも事業所がある。南紀白浜の拠点があるのは、2015年から総務省との協同による地方創生のための「オフショア・センター」プロジェクトによるものだ。こうした各拠点をめぐり、日本全国、津々浦々の中小企業の経営者との対話を重ねてきた千葉氏。「どんな経営者と話しても、まずはじめに聞く言葉は“事業を成長させたい、もっと上を目指したい”なのです」と話す。そして、そういう経営者の方との会話を進めるうえで、欠かせないものが「事例」なのだという。
自分の言葉でストーリーが語れること
セールスフォースには営業が活用できる事例のポートフォリオがある。豊富な事例の中から、営業は顧客の業種、目的に応じた事例を選んで持参する。「お客様の関心は、まず始めは同業他社の事例、話が進むと課題や目的に即した事例に興味が移ります」と千葉氏。業種と目的の2つの軸を頭に入れ、ぴったりと2つの軸にあう事例を切り出せるようにしておくことと同時に、顧客に応じた事例の「語り口」が営業の重要なスキルとなるという。
営業マンが駆使する事例には4つのタイプがある。1)Webページへの掲載記事やPDFによるホワイトペーパーなどの公開の事例、2)非公開として名前は伏せた上で紹介する事例、3)セールスフォース自身が自社の製品・サービスのユーザーとして活用した事例、4)営業自身が自分の経験として語る事例、である。
「face to faceでは、自分が関わった案件など、自分の言葉でストーリーを語れる事例の方が説得力があります。またセールスフォース自身の社内での活用事例も喜ばれます」
セールスフォースは提供する製品・サービスが、CRM(顧客関係管理)、SFA(営業支援)であるだけに、営業や顧客管理に関してはかなりの蓄積がある。自社の経験に裏打ちされたノウハウ・知見を紹介することが受けるのだという。